こらぼでほすと 厳命8
で、ライルが助手だ。あまり動き回らないように牽制してくれ、とは命じられたが、そんな問題じゃないだろう、と、大きなボウルの中のものをせっせと混ぜ合わせる。体力仕事は、もれなくライルの担当である。ふんふんと鼻歌を歌いながら、実兄はプリンを容器に流し込んでいる。それを見ると、まあ、たまには手伝うか、と、ライルも諦めて作業に集中する。
一日目にチョコチップの入ったクッキー。二日目に、日持ちのするバウンドケーキ。三日目に用意したのは、あっさりしたアーモンドの入った焼き菓子だった。それらを手伝いつつ、ライルものんびりと過ごした。
翌日の朝には出発する。今夜限りで、またしばらくは逢えないのだが、それほど寂しいとは思わない。でも、実兄には寂しがって欲しいから尋ねてみる。
「俺が帰ったら寂しい? 」
「いや、別に。」
「ちょっと。そこは 『寂しい』って言うとこだろ? 」
「そう言われてもなあ。来月には、また会えるんだろ? それに、明日にはリジェネが戻って来るだろうし。」
「来月は無視してやる。」
「はいはい、すいませんね。」
飄々と返してくる実兄に、ちょっとイラっとはするのだが、実のところ、ライルも寂しいわけではないのでスルーした。十数年ぶりに長い時間、ふたりだけで話せたのはよかったと思う。ようやく、実兄が生きているのだと実感できた気がした。外面でない実兄を、ようやく拝めたからだ。
作品名:こらぼでほすと 厳命8 作家名:篠義