二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

こらぼでほすと 厳命8

INDEX|3ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 

「・・・はいはい・・・デザートの用意するか。」
「うん、俺、紅茶がいい。ミルクティーで砂糖なし。」
 ニールが先に食べ終わったので、デザートと食後の飲み物の準備をする。それらも一緒に配達はされているが、デザートは冷蔵庫だし、飲み物はポットだった。最終的にテーブルに並べるのは、ニールの仕事だ。口では対等に、とか言っているライルは、ニールがしてくれるのが当たり前という態度で待っている。
「今日は梨だ。」
「こっちの梨は甘くてあっさりしてるな。」
「洋ナシとは種類が違うらしい。俺のも食っていいよ。」
「ひとつぐらい味見しなよ。ほら。」
 八等分にされた梨を手で持ち上げて、ニールの口元に差し出すと、相手も少し齧り取る。うんうんと甘いことを確認するように頷くと、ライルの紅茶を机に置いた。ニールのほうはほうじ茶という特区古来のお茶だ。すっかり、寺で飲み慣れてしまったのと、ほうじ茶はカフェインや刺激が少ないので、病人に向いているからのことだ。
「長持ちするお菓子がいいな。」
「別に、なんでもいいだろ? てか、俺は、まだ三日は帰らないんだけど? 」
「三日で三種類作れる。」
「どんだけ作るつもりだよ。」
「だって、ドッグに戻るんだろ? フェルトにも分けてやって、それでティエリアたちの分となると、結構な量になるぜ? 」
「ドクターが許可くれたらな、の話だ。」
「今のところは大丈夫だ。細胞異常なんてものは、いきなり倒れるものじゃない。少しずつ異常が広がっていくから・・・・」
「具合がおかしいなら、速やかに吐け。」
「だから、今は、どこもおかしくない。」
「つまり、前はおかしなところに自覚があったのにスルーしていたってことだな? それ、緩慢な自殺行為だからな。やったら、刹那に告げ口してやる。」
「・・・・もう、やらないよ。てか、今の状態でスルーは無理だろ? 」
 ニールの右手にはバイタルサインを、常時、チェックする腕輪が取り付けられている。少しでもおかしなことがあれば、即座にドクターのところへ報告が上がるようになっている。それに、本宅の一室に軟禁されているのだから、逃亡も難しい。
「わかんないぜ? 」
「言ってろ。」
 心配のしすぎだ、と、ニールも内心でツッコミをして席を離れる。ソファに移り、どっかりと腰を下ろす。ふう、と、息を吐いて天井を見上げて、「エイミーにも食べさせたかったな。」 と、呟いた。子供の頃は、自分でお菓子を作るなんて想像もしていなかった。母親が作るものを喜んで食べていたからだ。料理をするのは、母親だと思っていた。組織に入って、アレルヤたちに故郷のパンケーキを食べさせたくて作り出したのが切欠だ。誰も作れないのだから、自分でするしかなかった。だが、そのことに気付いても何も感じなかった。ライルのように泣いたことはない。記憶にある味を再現しようとしたが、それもできなくて、レシピを検索して作った。記憶にはあるのに、覚えていなかった。それも驚かなかった。

・・・・全部、切り捨ててたんだろうな・・・・

 思い出さないように、ニールの心が鍵をかけてしまったらしい。だから、作ることはできても、同じ味だと思うことはない。
「チョコチップのクッキーをリクエストしてもいいか? 母さんが、よく作っていたやつ。」
 ライルも紅茶を手にしてソファに移って来た。たぶん、ライルは味も覚えているのだろう。
「材料があったらな。それに、同じメーカーのチョコチップじゃないと同じ味にはならないぜ? 」
 だから、予防線を張る。ライルだけは誤魔化せない。
「そんなのわかってるよ。・・・ああ、そうだ。俺、プリン食いたい。作って? 兄さん。」
「はあ? そんな長持ちしねぇーもんかよっっ。」
「俺だけのために。」
 えへっと小首傾げているのが三十路の同じ顔の男というのが、とてもブルーだ。もうちょっと落ち着きとかないか? 三十路男、と、同じ顔の実弟に内心でツッコミはする。
「母さんのと、兄さんのはちょっと違うんだよな。でも、兄さんのが好きなんだ。」
「俺が作ってるのは市販のパウダーに牛乳入れてるだけだ。」
「あははは・・・・それが、俺にとって家庭の味になっちまったよ。」
 二度と母親の作るプリンにはお目にかかれない。そして、そういうチープなスイーツを食べられるのも実兄のところだけだ。そうなると、ライルにとっての家庭の味ということになる。
「それぐらいならお安い御用だ。市販のパウダーだけ買って来てもらおう。あれなら、誰が作っても同じ味だ。」
「でも、作るのは兄さんだけだからさ。」
「そりゃ、そうだろうな。」
 のんびりとお茶を啜って、たわいもない話をする。失くした家族の話は、実は初めてのことだ。誰にも聞かせられないし、誰も知らない。双子だけだから話せる。
「兄さん、寝る前にシャワー。」
「・・うん・・・・」
 食後のクスリを飲むと、ニールはライルにもたれかかった。クスリが効いてくると眠くなるらしく、食後は、毎度、この調子だ。三十分くらい、うつらうつらとしてライルをクッションの代わりにする。動くに動けないから、ライルのほうは諦めてテレビを鑑賞する。寺に居る時に、ニールが食後にうつらうつらしているところなんて見たことがない。後片付けだとか、そのまま泊る人間のための寝具の用意だとか、そんなものでバタバタと走り回っていたからだ。体調が優れないというのもあるだろうが、ここでは食事が済むと、ライルに凭れかかって居眠りをする。たぶん、これはニールが甘えているのだと気付いた。ライルだから、その後の世話もせずに、一休みするらしい。



 翌日、ドクターの許可は簡単に降りた。ということで、厨房でお菓子作りが始まっている。本宅の大きな厨房ではなく、歌姫様のプライベートな区域にある、こじんまりしたほうだ。こちらは、歌姫様がストレス解消に料理をするために用意されている場所だ。ニールにとっても勝手知ったる厨房だから、好き勝手にやっている。
「なんで、そんなに大量にプリン作ってるんだよ? 」
 プリンを流し込む容器は、ざっと見ても十を越えている。誰が、そんなに食べるんだ? と、ライルがツッコミだ。
「ドクターたちも食べるだろ? おまえの分は、三つくらいだが、足りるか?足りないなら、もうちょっと増やすぜ。」
「・・・・十分だ。それに、チョコチップも多すぎる。」
 作業台の上には、大きな袋に山盛りな感じのチョコチップが鎮座していた。本宅のスタッフに作りたいものを言って用意してもらったら、そんな様子の量が用意されたので、ライルはあんぐりと口を開けた。
「いつも、これくらいは作るからだ。いいじゃないか、ついでだよ、ついで。」
 年少組のおやつを製作する場合、主に寺のおサルさんの取り分を考えて作るので、こういうことになる。スタッフも、それを知っているから、いつも通りに用意してくれた。ニールのほうも余ったら、寺へでも配達してもらえばいいや、と、いつも通りに作る気満々だ。
「ライル、溶かしバターと粉を混ぜてくれ。」
作品名:こらぼでほすと 厳命8 作家名:篠義