こらぼでほすと 厳命9
レイを宥めていたら、背後から声が聞こえて、ドスッッと衝撃が来る。抱きついているのはリジェネで、居間の入り口には買い物袋を持ったシンと悟空だ。さらに、その背後にはトダカとアマギの姿もある。いろいろと言いたいことがあるという顔だから、うわぁーとニールも退く。
「だいたいさ、こんなにアテ作ってる段階で、グータラしてねぇーってのっっ。グータラって、なんもしねぇーことなんだぜ? ねーさん。わかってるか? 」
「家のことは、俺がやるから、ママはさんぞーといちゃいちゃしててよ? 八戒たちも来るんだから。」
「ママ、俺たちが出来る限り、手伝いますから、あまり動かないでください。お願いだから、のんびりしてください。」
「ママ、ママ、もう、僕、怒ってるんだからねっっ。なんで、普通にしてんのさっっ。僕、倒れたって聞いて泣いたんだよ? ティエリアも心配してたんだからねっっ。」
四人四様に、きゃあきゃあと怒鳴るので、ニールは言い返せなくて苦笑する。これを聞いていると、生きてるな、と、実感する。この光景が見られなくなるのは残念だと本当に思うのだ。
「もう、しないって。おまえさんたちにも心配かけて悪かった。」
怒鳴っているので、怒鳴り返したら、四人も沈黙して睨んでくる。勝手に居なくなるな、と、視線が訴えている。どうにも生きていないといけないらしい。
「娘さんや、お父さんもご立腹だ。毎日、様子は見に来るからね。」
「まったく、きみには呆れるぞ? 」
ついでに、トダカとアマギにも叱られる。ごめんなさい、と、頭を下げたら、ぐいぐいとレイに居間に連行された。
「用意は俺たちでしますから座っててください。」
「さんぞー、見張ってて。シン、お茶出して。」
「おー。」
出来合いの惣菜が卓袱台に用意されていくので、手伝おうと思うのだが、片腕をリジェネがしっかりと掴んでいるし、対面のトダカは、座ってろ、と、睨んでくる。そして、亭主がとなりに腰を下ろす。
「諦めて、グータラを覚えろ。亭主の命令だ。」
「そうだね。この際、グータラというのを体得しておきなさい、娘さん。なかなかいいもんだから。」
ガチャガチャとコップや皿が用意されていくのを眺めつつ、亭主と父親に諭されると、しょうがない、と、ニールもどっかりと座り込んだ。
「ママのは、お粥。食べられそうなら、適当に摘んで。」
八戒が、病人食の用意はしてくれている。他には、炊き立てご飯とかビールとか冷酒なんてものが並ぶ。卓袱台一杯に、料理が並べられて、「おかえりー。」 と、乾杯から始まる。出来あいの惣菜とはいえ、量はものすごい。育ち盛り食べ盛りが、四人もいるし、男ばかりだから、並大抵の量では追いつかない。それを眺めつつ、毎日、出来合いの惣菜なんて不経済だな、と、内心で女房は考える。
「リジェネ、明日、買い物に付き合ってくれ。うち、なんにもないんだ。」
何の気なしに、ニールが隣りのリジェネに、そう言ったら、「グータラしろっっ。」 と、四方八方からツッコミが入った。
「まだ、わかんねぇーのかよっっ、ねーさんっっ? 」
「いや、もったいないだろ? シン。」
「そこじゃねぇーよっっ。おやつとか作るなよ? リジェネ、台所にねーさんが立つのは阻止しとけっっ。」
「わかった、シン。」
「あのさ、ママ。毎日、出来合いってわけじゃないから。八戒が作ってくれてるからさ。」
「でも、そんなに八戒さんに迷惑かけるのも、どうなんだ? 」
「今は、いいとしておきなさい。やっぱり、毎日、監視が必要なようだ。三蔵さん、私も顔を出すよ。」
「けっっ、あんたの場合は、暇だからだろ? 」
「いいじゃないか。本当に暇なんだから。だいたい、うちの娘さんは具合が良くないんだから、里帰りしたほうがいいんだ。でも、三蔵さんも寂しいだろうから譲歩してるんだがね? 」
「勝手にしろ。」
「いや、トダカさん、本当に漢方薬で体調は落着きましたから。」
「でも、無理はできないんだよ? きみは、無理するのが好きだから、お父さんは心配するんだ。」
「トダカさん、僕が常時、見張るから安心して。ママ、僕の世話はしてね? まだ、手が使えないから。」
リジェネの左手は、まだ包帯のままだ。何ヶ月かしないと元通りにはならない。爪が、ある程度、伸びるまでは不自由する。
「ああ、そっちは任せてくれ、リジェネ。」
「リジェネ、ねーさんの監視は厳しくな。ちっともわかってないんだからさ。」
「それと、おやつは作らせるなよ? 俺が適当に買って来るか、八戒が作りに来るかんな。」
「了解。任せておいて、シン、悟空。僕も、ちょっとは特区の生活に馴染んだから。」
どんどん勝手に話は進んでいるが、ニールのほうは適当にスルーだ。となりの亭主に冷酒を注いで苦笑していたりする。で、亭主も微笑んで、それを飲み干していたりするので、そこだけ世界が別になっている。
「聞いてませんよ? トダカさん。」
「なんていうか、三蔵さんの独り勝ちで腹立たしい気分ではあるね、アマギ。」
寺の夫夫は無自覚にいちゃこらしてくれるので、トダカもアマギも慣れているが、それでも、なんとなく腹立たしい気分にはなる。こっちにも酌してくれないか? と、アマギが声をかけて世界を崩す。
「体調が戻ったら、正式に籍を入れて子供でも作らないか? 三蔵さん。」
「本気で言ってんなら、病院へ叩き込むぞ? 舅。」
「トダカさん、俺の性別、忘れてませんよね? 子供は無理ですって。」
「いや、あちらの技術で、どうにかなるかもしれないだろ? 」
人外の力で、そういうこともできるのでは? と、トダカは暗に坊主に言うのだが、坊主は、おいおいとツッコミだ。
「そんな特殊技術はねぇーっっ。てか、これを抱けって無理だろ? 」
「あー俺もねぇー。積極的な参加は無理だなあ。」
どっちもノンケだ。野郎の全裸なんて見たくもないから、全否定する。
「あのね、遺伝子情報をミックスしたイノベイドなら作れるよ? ママ。それ、やってみる? 」
そして、ヴェーダの技術でできる方法をイノベイドが提案する。それには、坊主も女房も絶句した。そして、トダカは爆笑だ。なるほど、そういうことは可能であるらしい。
「リジェネくん、素敵な提案だ。ニールの体調が戻ったら、考えてもらおう。」
「そうだね。今、育児はできないもんね。」
そこじゃないだろ? と、内心で年少組はツッコミだ。いろんな世界の関係者が入り混じっていると、いろんな提案が可能になる。
「名前はつけさせて欲しいな? 三蔵さん。」
「てか、その前に正式に結婚しなさい、きみたち。」
からかうように、トダカとアマギが言い放つと、えーという顔で夫夫が顔を見合わせる。
「どうします? 三蔵さん。」
「おまえみたいなロクデナシなんか内縁で十分だ。」
「あははは・・・ということなんで。」
どっちも正式に、どうこうなんて考えていないので、おどけて、そう結論する。それにつられて、全員が笑い出す。いろいろと想像すると、かなり笑える代物だ。
「ねーさんがウェディングドレスって強烈だよな? うはははははは。」
「シン、うちのほうは赤いチャイナドレスだぜ? 三蔵も一緒の赤だ。・・ぎゃははははははは。」
作品名:こらぼでほすと 厳命9 作家名:篠義