東方~宝涙仙~ <其の壱拾(10)~弐拾(20)>総集編
今はとにかく紅魔館へ向かい原因をつきとめるしかない。妹を恐れながらも内心犯人、原因はフランドールではないことを望んでいる。もしもフランドールが犯人だとして、自分には止めれないことがわかっているから余計に不安になる。
妖精の森の上を越え、紅魔館の近くまでついた。紅魔館の前にいるたくさんのメイド妖精達が見えるほどに近くにいる。その団体の中のパチュリーの姿も確認できだようで、少しほっとした。
ーレミリア側ー
紅魔館の主、レミリア・スカーレットは動揺していた。
魔理沙といるときは隠していたが、内心謎の事件に対する恐怖が湧いていた。咲夜が殺された時の恐怖と悲しみと絶望と似た感覚。あれ以来レミリアは妹を恐れ監禁を命じて安心感に浸りきっていた。
しかし今回の紅魔館の炎上によってレミリアの妹に対する恐怖が蘇ったようで、平常心ではいられなくなっていた。
「あれが紅魔館?」
レミリアの下で声がした。
「そうなんだけど、あれー。なんか煙があがってるなー」
「入って大丈夫なの?」
「入っちゃいけない場所だからコッソリじゃなきゃいけないのだー」
「そういうのをスニーキングって言うんだよね!」
「そーなのかー」
ルーミアとかぼちゃんがすでに紅魔館まで辿り着いていた。
レミリアが二人の元へ降りて声をかけた。
「アタナ達私の紅魔館に何か用?」
レミリアに睨まれたルーミアが硬直し、かぼちゃんは「誰?」という顔をして硬直するルーミアを不思議そうに見ている。
「やばい!かぼちゃん逃げろぅ!」
「え、ちょルーミアちゃん!?」
「逃がさないわよ、もしかしたら紅魔館の異変について知ってるんじゃない?」
レミリアは真剣な顔で、しかし口元はにやけたような表情でスペルカードを取り出した。
「呪詛『ブラド・ツェペシュの呪い』!!」
「いげぇ!!かぼちゃん危ない!ナイフが変に起動変えて飛んでくるよ!!」
「南壁『ネパーレル・ローツェ』」
「え?」
かぼちゃんもスペルカードを発動した。
壁のような結界がルーミアとかぼちゃんの前に張られる。薄い結界ではあるが、大技ではない呪詛を防ぐには十分だった。
そして防いだ弾やナイフがオレンジ色の弾に変わ弾幕となってレミリアへ返される。不意にカウンターを喰らったレミリアは弾幕を完全には避けきれずかすかに腕に弾をかすらせた。
「すごいなー、かぼちゃん!」
「チルノやルーミア程度の体格にして私の弾幕を返すなんて…」
レミリアは呆気にとられて目を丸くした。ダメージは少なかったにしろ、驚きで少し笑顔になる。
レミリアは攻撃を止めて二人に話しかけた。
「アナタ達、この紅魔館の炎上についてなんか関係あるかしら?」
逃げようとしていたルーミアはレミリアの状況を把握して、レミリアに近づき質問に答えた。
「残念ながら知らないなー」
「でしょうね。冷静に考えればアナタ達が紅魔館に奇襲しかけれるとは思えないわ」
「何かあったのかー?」
「紅魔館から煙があがっててね、私のいない間に」
「フランドールがやったのかー?」
「……。」
レミリアは答えれなかった。フランドールであるとは断定したくない。
下を向いて、答えないレミリアにルーミアは「悪いこと言ったかな」という感じに顔をのぞいた。
ルーミアはこの時のレミリアの顔を初めてみた。普段のレミリアは偉そうで、でもどこか優しそうだけどやっぱり怖い、そんなイメージだった。しかしこの時のレミリアは寂しげで不安そうな顔をしていた。
「あの、紅魔館の吸血鬼…」
ルーミアはレミリアを呼んだことがない。ゆえにこう呼んだ。
「なんか悪い事言った…。ごめんなー…」
「アナタは別に悪くないのよ」
気まずかった。
………。
……………。
………。
…。
「あ、えー、ルーミアちゃん…」
かぼちゃんがルーミアの耳元でささやいた。
「紅魔館、行かないほうがいいんじゃない?」
「チルノや大ちゃん来たらどうするか決めよう」
「んー、入らないほうがいいと思うけどなぁ」
「チルノは何が何でも行きたがりそうだし、でも大ちゃんは断固拒否しそうだし……」
コソコソ話す二人にレミリアはまた話かけた。
「アナタ達はこれからどうするの。あんま紅魔館には近づかないほうが身のためよ」
「え、あー。帰る!行こう、かぼちゃん」
「ふえ?ちょっと!」
スタスタと行ってしまうルーミアを慌てて追いかけるかぼちゃん。
「また今度安全な時に遊びに来なさい」
「……わかった!」
背中を向けて手を振るルーミアに、振り返って手を振るかぼちゃん。
その二人を落ち着いた優しそうな親のように見送ってからレミリアは紅魔館へ向かい直した。
レミリアは独りでにつぶやく。
「紅魔館の異変の原因とか運命は読めないのに、あの二人とまた後で会う運命が読めるわね…」
その表情にいっさいの笑いはなく
真剣そのものだった
▼其の壱壱(11)に続く
Touhou Houruisen 〜episode11
※この回にはグロテスクな表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
「キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」…ひ?
<あらすじ>
フランドールは逃げる風香とあかりを追いはしなかった。
そして一人きりになった廊下で後ろから誰かに呼び止められた。フランドールは一人じゃなかった。
フランドールは呼ばれるがままに振り向いた。チルノか誰かであるだろうと予想して、まさかそれが自分の最も会いたくなくて会いたかった者とは知らないで。
ー紅魔館・廊下ー
フランドールは言葉がでなかった。
目の前に存在する過去にあった圧倒的な狂気。自分の狂っていた時代と並べてもいいほどの狂気。殺意なき殺行為依存者。俗にいう狂人(人かどうかすらわからないけど)。
「久しぶり、フランちゃん」
「お前は……」
「うへへへ、忘れたのかなぁ?」
「………」
「フランちゃんは物覚えが悪いなぁ」
瞳孔の開ききったような目に、にんまりとした口で狂人は名乗りをあげた。
「アイラだよ!」
※アイラ・ダーブレイル
二つ名:殺意のない殺依
能力:破壊と創造を引き起こす程度の能力
「アイラ…ちゃん……」
「フヒヒ、フランちゃんは頭がわるいなぁもう。アイラ忘れちゃうなんてゴミっちいよ!」
フランドールの体が小刻みに震える。フランドールが震える?フランドールが恐れる?…フランドールは恐れ震えていた。
アイラ・ダーブレイルは幻想郷ではあまり知られていない。それもそのはず、幻想郷でアイラの遊び相手になって、まず生き残れた者は少ない。かつて紫電坂白仙がアイラの殺処分を試みたものの失敗。
その後は八雲紫、藤原妹紅、四季映姫ヤマザナドゥらなどもアイラとの関わりを断固拒否し、戦闘はおろか近づきすらしなかった。
射命丸文も近づきはしなかったため、幻想郷でアイラ・ダーブレイルという名前は知りわたることはなかったが、知る人ぞ知る幻想郷のブラックリストとして扱われている。
作品名:東方~宝涙仙~ <其の壱拾(10)~弐拾(20)>総集編 作家名:きんとき