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東方~宝涙仙~ <其の壱拾(10)~弐拾(20)>総集編

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 彼女には左腕がない。左腕がないというよりも肘から下が切断されていて、左腕が不満足な状態である。左腕に痛々しくも包帯が巻いてあるが、別に呪いを封じ込めているなどといった類ではなく正統的な使い方をしている。
この無い左腕はアイラが自分で切断したもの。とある錯乱した日に鉈を振り回し、結果自分の腕を切り込んでしまった。そして、狂ったアイラは激痛に耐えきれなくなった左腕を自らさらに切り込み、右手で引きちぎった。
 骨のズルズル抜ける感触。皮と血管がブチブチと切れていく感触。目の前には汚く飛ぶ鮮血。自分の手には感覚のなくなった自分の手。
不思議な感覚だったろうが、彼女はこれだけは認識できた。
 ―痛い
 彼女は余計に狂いだし、左腕を床に叩き付けて足で踏みつけて右手で折りだした。
自分の手が折れるのに感覚が伝わらない。
 感覚が伝わらないのに左側が痛い。
    彼女は散々暴走して失神した。
 
 失神した彼女を誰が救ったのだろうか。
 失神した彼女を救ったのは姉だった。

 
「アイラ、あんまり挑発とかしちゃダメって言ったでしょ?」
 ※シズマ・ダーブレイル
 二つ名:影に沈む苦悩の長女
 能力:影を作る程度の能力

 その例の姉、シズマがアイラの挑発を抑え込む。
面倒見のいい姉で、アイラの付き添いでいられるのはおそらくシズマしかいないだろう。しかしシズマもアイラにことごとく悩まされてきた。
何度も何度も重傷を負わされた。病院の手術ごっこ中には本当にメスで切られた。さらにそこを麻酔もなく針と糸で縫われた。他の例を挙げていったらきりがないだろうほどだ。
「だってフランちゃんがアイラのこと覚えてないんだもーん」
「随分と会ってないから忘れられてもしょうがないのよ」
「じゃアイラはなんでフランちゃんのこと覚えていれたの?」
「それほどアイラはフランちゃんが好きなんだねー」
「ぬぬぬ?じゃあさおねーちゃん」
「ん?」
「フランちゃんはフランちゃんはアイラが好きじゃないってことなのかなぁ?」
「それはお姉ちゃんにはわからないけど、そんなことないと思うよ」
「むずんがしょうじたよ?」
「矛盾?」
「好きなら覚えてられるのに、好きなのに覚えれてられないよ?」
「アイラ、ちょっと文法メチャクチャ」
「フヒヒ、アイラはめちゃくちゃ?」
「アイラはいい子いい子」
 そういい妹の頭を撫でる姉の手は傷だらけだったが、温かい優しさが感じられた。

 そんな姉妹を見ているとフランドールは無性に寂しくなった。
姉、レミリア・スカーレットとの日々。幽閉される前のレミリアの優しさが欲しくてたまらない。先ほどの恐怖をかき消すほどフランドールは寂しさにつぶされた。
フランドールがまた震えだす。
 フランドールは泣いていた。幽閉する前まではレミリアはフランドールを心から可愛がっていた。
 一緒にご飯を食べて、でも最初はメイドなんてもの雇ってなかったからレミリアとフランドールで毎食作った。料理に慣れていない最初のほうは焦げたハンバーグなど当たり前だった。それでも牢獄に放り込まれる食べ物や人間よりも何倍も何十倍も美味しかった。
流水が苦手だったから二人で苦労して入った風呂。
『お姉ちゃん崩れてる崩れてる!!』
『フラン!あんたこそ羽が大変なことになってるわよ!!』
『きゃあああ!!』
『こんな時こそ冷静になりなさい!カリスマ性が問われ…きゃああああああ!!!』
 なんて会話がフランドールの脳裏に蘇る。泣きながらもそれを思い出してフランドールは少しニヤニヤした。
逆にそれが悲しそうで、寂しそうで、何より自分の狂気のせいでこうなったのを悔やむ姿が実に悔しそうだった。

「フランちゃん、閉じ込められたんじゃないの?」
「………。」
「こらアイラ、やめなさい」
「ホントのことだもん!」
「…………っ!」
「あ、フランドールちゃん!」
「あれ、フランちゃん?」
 フランドールはその場を逃げ出した、いや、その場から走り去ったわけではない。フランドールは姉、レミリアの部屋へ向かった。
今いきなり姿を見せてもただ爆発の犯人扱いにされるだろう、それでも姉に会いたかった。
 いきなり抱きついたらどうだろう、いきなり泣いて土下座したらどうだろう、いきなり黙って目の前で立ち尽くすのはどうだろう。

 ただ運命の答えはひとつ『疑われる』それしかなかった。



 走り去るフランドールをアイラはゆっくりゆっくり追いかけ始めた。
「フーランちゃん、アイラとお話しするんだよー」
「あんま挑発はしちゃだめよ?」
「フヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ………」
(止めるべきかしら…)
「キヒヒヒ、フラーンフラーンなフランちゃぁぁん…フッヒッヒッヒッ、イヒヒ、ヒヒヒヒヒ」
(もう止めれそうにないわね)

 
 廊下には不気味な笑い声がこだまするように流れていた。



      ▼其の壱弐(12)へ続く





Touhou Houruisen 〜episode12

「また壊しにきたの?」


ー紅魔館・門前ー
 レミリアはルーミア達を見送り、紅魔館の門前まで来ていた。門前にはレミリア以外誰もいなかった。しかし上空から見た限り、正面の門前から入ると紅魔館のエントランス付近が妖精メイド達でごった返しているので裏口に回ることにした。
「爆発したのは…見るところキッチンあたりかしら」
 この時レミリアは少しほっとしていた。キッチンなら何者かの犯行による爆発ではなく、料理中の事故の可能性も充分に考えられるからだ。犯人なんていてほしくない、犯人がいてもあくまでも事故であってほしい。それがレミリアの願いだった。
「なんにせよ爆発した場所を探さなきゃならないわね」
 裏口についたレミリアは紅魔館の二階にあたる部分の廊下の窓を開けて中へ侵入した。自分の家にこんな入り方をするのなんてどこぞの居候猫型ロボットのお友達の眼鏡君くらいだろう。母親を怒らせた日には黄色いミニヘリコプターらしきものをつかって二階の窓から入り込む。今のレミリアの侵入方法はそんな感じだ。
ただ、忍び込む理由が全くもって違う。あくまでもあっちは解決が簡単な理由、こっちは深刻で場合によっては解決が難しい。
 そろそろ太陽が沈む頃、今日の月は紅いそうだ。

ー紅魔館内部ー
「侵入成功ね。なんで自分の館なのにこんな入り方しなくちゃならないのかしら」
 レミリアの入った場所は煙すら立ちこめていない、いわば安全な場所だった。音すらしない静けさ、夕暮れと蝋燭しか明かりのない暗い廊下が似合っていた。
「随分と幻想的ね。こんなにも綺麗だったかしら、ここ」
 レミリアは窓から月を探した。まだ完全には月が出ておらず、少し残念そうに目線を戻した。

 レミリアはキッチンへ向かった。爆発の原因であろう場所の第一候補はキッチンだからだろう、迷うことなくキッチンを目指した。