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零崎空識の人間パーティ 30-33話

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<第三十話 肉薄(憎迫)>

 空識と双識は同時に駆けた。
「くそ!」
 三夏はクナイを投擲するが、空識は身体を地面スレスレまでに低くしてかわし、
「負けるわけには!」
 二秋は火薬玉を投げるが、双識はそれを自殺志願の側面で横に捌き、誘爆させてかわし、
「ごめんだけどー。邪魔だよー!」
「ちょっと退いてもらうよ」
 そのまま擦れ違いざまに切り捨てた。
 噴水のごとく勢いよく二つの身体から噴き出す血には目もくれず、空識と双識は互いに切り掛った。
 鈍い金属音が二人の間から生まれる。
 衝撃で空識は後ろに少しのけぞってしまった。
 そこに双識は一気に力を込め空識の一撃を上に弾いた。
 返しの刃で双識の一撃が空識の身体を捉えそうになるが、片手での後方一回転で難を逃れる。
 空識は手に触れたポリバケツタイプのゴミ箱をそのまま双識に投げた。
「邪魔だよ!」
 一瞬にして真っ二つになるゴミ箱。 しかし中のゴミが宙に広がり、双識の視界がふさがれる。
 その隙を狙い空識は横の壁を走り双識の頭上を越えようとした。
「充分評価に値する行動だけど、甘いね」
 長い腕を鞭のようにしならせ、身体に巻き付けるように振り下ろされる一撃により、空識は地面にたたきつけられる。
「グッ!」
 すぐさま追撃がきて、地面を転がりなんとか避ける。
 空識は転がる力をそのまま使い、手を軸にして回転した。
『一刀・一文字切り払い』
 地面を撫でるように振られるサーベル、双識は跳び避ける。
『一刀・一文字切り』
 一回転してもう一度振られるが、双識は自殺志願の側面でうまく受け流した。
『一刀・一点突き』
 畳み掛けるように遠心力で放たれる鋭い突き、だがそれさえも弾き落とされてしまった。
 双識は肉薄するほどに距離を詰め、耳元で囁いた。
「この程度で終わりかい?」
 空識の腹部に鈍痛が起こる。  
 双識自殺志願が深く突き刺さり、服には赤い血が滲みだしていた。
 絞り出すような呻きを上げ空識は二歩たじろいだ。 
 そのさい自殺志願が腹部から抜け、血が噴き出す。
 双識は間合いを詰め、自殺志願を振るう。
 ふらつく身体でも空識は条件反射のごとく、バク宙でその一撃をかわした。
 バク宙で地面に着く瞬間に一気に足に力を込め、着地の衝撃さえも利用して空識は宙を舞った。
『空中一刀・一億文字切り』
 宙を舞う空識から、一つの音楽で踊るように生まれる無数の斬撃。 
 その全てを双識は自殺志願で流したり、身体を動かしかわした、少し通るがそれさえも皮膚一枚を裂く程度のことしかできなかった。
「見事だけどそれじゃあ――う?」
 双識の頭上になにか液体が降った。
「血? ――ッしまった!」
 頭上を向くと空識が双識の頭上を跳び越えていた。
(大技さえも弾幕扱いか!?)
 着地すると空識は脱兎のごとく駆けだし、直ぐに見えなくなった。
 空識が逃げた方向に目をやりながら双識は独り言をボヤいた。
「……また逃げられるとは思ってなかったよ。 れよりもあの状況に及んでさえも逃げることを最優先とはね。――まさか……!」
 双識は倒れている蓬生兄妹のそばに寄った。
 双識が切った二秋はしっかりと事切れていたが、
「やっぱりなぁ」
 空識が切った三夏の方はもう助かる見込みがないと一目で分かる状態だったが、まだ息があった。
「殺しきらない事で『あの状態』になるのを抑えて、逃げることを優先できたという訳か……ちょっと――」
 双識の腕が動いた次の瞬間、三夏の首が胴体から切断され完全に生命活動を停止した。
「馬鹿にされてしまったものだな」

 
<第三十一話 空っぽの空>

 かつて、空識がまだ零崎一賊だったころ。
 まだ家族の一員だったころ、空識は兄である双識にこう評価されていた。
「――女性の乳房というのは、大小サイズの違いに関係なく何か途方もないものが詰まっているんだ。 それは子ども育てという目的においての母乳なんての実物的なものではなく。 目に見えない大切なもの、夢や希望や理想や可能性だったり。 身体のワンパーツにしか過ぎないはずの女性の乳房には、科学的理論では説明ができない何かがあるんだ」
 ……別に引用する言葉を間違えたわけではない。
 これはただの前振りだ。
 双識は続けた。
「だけど空識君キミはどうなんだろうね? キミにの中には何があるんだろうね?」
(はぁー……。 一体どういうことですかー…?) 
 空識はやるせなさそうに返した。
 このとき双識は珍しくお酒が入っており、空識は女性の『ほにゃらら』など意味が分からない話を長々と続けられていたのだ。
「キミは私が見てきたなかでも『殺人鬼』としても『プロのプレイヤー』としてもトップクラスの才能を持っていると、素晴らしい器をもっていると断言できる」
(それはどうもー)
 その言葉に空識は素直に照れた、褒められるのには慣れていないのだ。
 しかし双識は逆接で話を続けた。
「――だけどキミの場合、器が大きいだけなんだよ。 器のディチィールは精巧で緻密、器の大きさ容量は陳腐な表現かもしれないけど、空(ソラ)のごとく広く偉大だ。 だけど中身がない、中身が空(カラ)なんだよ。 空洞とでも言えばいいのかな? 空洞には何もない、あるのは空気(殺気)のみ……」
(なにが言いたいんですかー?)
 空識は不機嫌さを隠そうともせず返した。
 空識は双識を尊敬していた、感謝もしていた。 しかしこのころから、命を狙われるという理由なしでも、近づきたくなかった。
 自分を見透かされるのを身に感じるのがものすごく嫌だった。
「――空識君、キミは本当におぞましいほどに素晴らしいよ。 自分を形作り、それだけのモノを無理やり蓋をしめて抑え込んでいるのは」
(――…結局のところ何が言いたいんですかー?)
 空識は早くこの話を終わらせたく結論を求めた。
「私はね、キミがどこに行くのか心配でそして楽しみでもあるんだ。 二人分の『零崎』を持ち、誰よりも零崎であるキミがどこに行けるのか?をね」
 そう言うと双識は何事もなかったかのように、思春期の女子における初めてのブラジャーの装着における成長率の比率などの話を始めた。


<第三十二話 嫌い嫌い>

 目を覚ますと懐かしい天井が目に入ってきた。
「目覚めたぁぁ!!?」
 パソコンの前に座っていた、腰まで伸びた長い髪を胸の前で大きなリボンで結んだ奇抜と称すのが相応しい恰好をした少女が声をかけてきた。
「ああー、白織おはようー。うるさいからボリュームダウンー。 ここはどこーわたしはだれー?」
「ここは私の部屋で、貴方は私の愛する空識くんでしょ」
「――あ、あーそれはどうもー」
(コイツは双識さんとは別の意味で苦手なんだよな)
(――いや違うか、俺は零崎が総じて苦手なんだよな。なんというか俺の性質上相性が悪すぎなんだよな。 近すぎて響かない……)
「なに行き成り上の空になってんのよ」
「ああごめんー。 ちょっと日本の政治について考えててー」
「……それはとっても時間をかけて考えないといけないことだからあとにして」
「ははそうだねー」
 悟られないように軽くごまかし空識は疑問に思ったこと口にした。