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意地ハルモ想イノタケ

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 ミーティングに使おうと思っていた資料だ。なくても差し支えないようなものだが、一応今日取り上げるつもりの議題のメモもある。
「これ…。すぐ行くよって、先に進めといてくれへんやろか…」
 柔造の腕が気にかかって仕方がない。冷静に喋ったつもりだが、自信がなかった。
「わかりました」
 先ほどまで朗らかに笑い合っていた青年が、打って変わって無表情に蝮からファイルを受け取る。では、と軽く一礼すると床を蹴りつけるような勢いで歩み去った。それを見送った蝮の肩から、するりと柔造の腕が外れる。
「行くで、蝮」
 そんな風が起きたとも思えないのに、肩に冷たい風がすうと吹き抜けた気がした。自分の顔だけが熱い。
「はよしぃ」
 焦れたかのように、怖い顔をして柔造が蝮の腕を掴む。
「ちょ、痛い。申、痛いて」
 引きずられるように引っ張られる。
「蝮」
「なんや!」
 苛立たしさから、思わず怒鳴りつける。二の腕が潰れそうに痛い。とにかく放して欲しくて握っている柔造の手を叩いた。
「お前、アイツのこと判ってて構うんか」
 するりと腕から力が抜ける。思わず体ごと掴まれている腕を引いた。
「なんの話や」
 柔造はそっぽを向いたまま答えない。するりと引いた手首が再び柔造の手に捕らえられる。
「…さる…?」
 怒ったような顔をした柔造が、まっすぐに蝮を見つめてくる。
「お前…」
「…なんや」
 柔造がいきなり吹き出したかと思うと、のけぞってゲタゲタと笑い出す。
「ああ言う、優男が好みなんか?」
「は?」
 何を言われたのか、一瞬判らなかった。
「なんや、相変わらず御伽噺の王子様みたいなんがエエんか?エエ歳してお子様やな。しかし、お前のトコの隊、傾向が判れへん。王子様にスキンヘッド、黒髪ロンゲにモヒカンて、どこ行きたいんや。ビジュアルバンドか」
 バカにされたのだけは判る。一瞬にして怒りが湧き上がった。
「なに言うて…。私は外見やのうて公正に実力見とるんや。深部警護は細心の注意が必要やからな。お前みたいに脳筋バカや意味あれへんやろ!」
 手首を離そうと、腕をむちゃくちゃに振る。廊下を行きかう職員たちが、またやってる、と呆れた表情を浮かべて二人を避けて行く。それがまた蝮を居た堪れなくする。この場から今すぐに消えてしまいたい。力を振り絞って腕を引き剥がそうとする。
「お前、気をつけな、今に男に騙されるで」
「私がそないなアホな真似するか!お前みたいな申と一緒にせんで!」
「心配しとんのやないか!」
 怒鳴りつけてから自分の言った言葉を認識したのか、柔造が足元を睨みつけて黙り込む。掴まれていた手首から柔造の手が外れた。小指の辺りで戸惑ったように一瞬止まって、次の瞬間温もりが消える。ぱたりと手が脇に落ちた。二人の間が凍ったように沈黙が降りる。
 なんやの、今のやり取り。
「行くで!」
 怒ったように柔造が呟いて、蝮の手首を着物の袖ごと掴んで歩き出す。蝮は何となくそれを振り払ってはいけないような気がして、黙って後を追った。小さい頃を思い出して一緒だ、と思う。自分を先導する時は手首をぎゅ、と握ってずんずんと前を歩く。柔造の背中に子供の頃の姿が重なったような気がした。あの頃はまだ仲が良かったと思う。もう、今更戻れない。
「あ…」
「なんや」
 蝮の声を聞き咎めて、柔造が振り向く。
「いや…。何でもあれへん」
 驚かすな、とぶっきら棒に呟いて柔造が廊下を進んでいく。
 耳、赤うなってる。
 うるさいくらいに動悸が激しくなった。
 願っても以前のようにはもう戻れないだろう。何に願ったら良いのかも判らないけれど。それにこれだけこじらせておいて、虫が良すぎる。
 でも、もう少しだけ。
 自分を引っ張る柔造の手を見ながら、蝮は何とも知れないものに祈る。
 後生や、もう少しだけでええ。この手が離れませんように。

――了
作品名:意地ハルモ想イノタケ 作家名:せんり