夏に一度死んだ
「俺のいいたいこと、わかった?」
「……さあな」
「うっそだー、絶対わかってるくせに。バカなえみおくん?」
「わかんねーよ」
「じゃあ、分からせてやるよ」
なんて無意味なんだ。
ぞっとするほど当たり前に噛みつかれた唇から、血のにおいがただよう。ここ、ピアスでも開ける?――そんな問いかけが聞こえてきそうな、当たり前の夏と、裂かれたくちびると、溶けた心臓。視界が揺れて息がつまるあたり、あまりにも明瞭すぎて、逆に夢のようですらある。
襟元にまたひとつ、あかい染みができた。これは当分落ちないだろう。