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アズール湊
アズール湊
novelistID. 39418
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黒と白の狭間でみつけたもの (13)

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〈 第13章 はぐれた先で… 〉


あっという間の出来事だった。

トウコとつないでいた手が引きつった瞬間、雑踏にのみこまれた。

『トウコ!!』

叫んでも声はかき消され流される。

トウコの姿があっという間に見えなくなって、体が何度か回転し、押し流されて上下がわからなくなった。

昔、森の中に住んでいた頃に、誤って落ちた川で溺れかけた時みたいだった。

体勢を直そうと、もがけばもがく程、人混みから抜け出せなくなり、よけいに押し流された。

絡んでしまう足や尾を立て直して……、ようやく頭を上に出すことができて、気づいてみれば、先程まで見えていたポケモンセンターはとうに姿を消して、見たこともない真っ黒なビルが建ち並ぶ通りの中にいた。

それでも勢いは止まらずに、ただ流れについていくしかない。

『トウコ! トウコ!どこにいるの!?』

必死に頭を上に出しながら呼びかけるが返答はない。

周りを見渡そうとした瞬間、誰かに蹴飛ばされて、転んだ。

倒れたところに、上から足が迫る!

『うわっ!』

体をひねらせて避け、急いで起きあがるが、そこにも足が迫った!

慌てて避けようとした目の先に、レンガに囲まれた街路樹を見つけて、急いでその植え込みの隙間へと駆け込んだ。

ようやく人が立ち入らない場所をみつけて、ほっとする。

息を切らしながら、体についた埃をはたき落とすと、タッくんは街路樹を囲む段の高くなったレンガの石垣につま先立ちになって、人の流れを目で追いトウコを捜してみたが、たくさんの人達が右へ左へと流動的な動きを続けるだけだった。

何人ものトレーナーが目の前を通り過ぎていくが、その中にトウコらしき姿は見あたらない。

こんな大勢の人の中、たった1人を見つける事なんてできるのだろうか。

容易ではないだろうことを自覚して、しばらく、呆然と立ち尽くした。

このまま、ここにいて動かない方がいいだろうか。

トウコなら見つけてくれるかもしれない。

そんな考えが浮かんだが、壁のように立ちふさがる目の前の人の波を見て、きっと無理だと思った。

人よりも低い身の丈の自分が、見つけやすいはずがない。トウコだって、この街に慣れていないのだ。こんなに人が多い中、どこの場所だかもわからないここに、トウコがやって来るのは、いったいいつになるというのだろう。

こんな道の端、誰も見ていない。目に入らないこの場所は、よっぽど運が良くない限り、見つからないんじゃないだろうか。

―― 奥に公園がある…、迷ったら道をまっすぐいけば……。

トウコが硬い表情で地図を見ながら、小さく呟いた言葉を思い出した。

『そうだ、公園……』

そこまでいけば、ここまで人は多くないはずだ。広場になっている開けた場所だってあるだろう。

問題は道だ。

このまま、大通りの雑踏に飲まれていたら、前もろくに見えやしない。

まっすぐにさえ進めないなら、どこかで道を誤るかかもしれないし、正しく公園にたどり着ける保障がない。

『どこか他に道は……』

タッくんはきょろきょろと周りを見渡して、街路樹の後ろに、ビルの合間にできた細い小道があるのを見つけた。

路地とも言えない、大通りに連なってできているビルの隙間は、ちょうどなんとか人が1人通れるような大きさで、奥へ奥へとまっすぐ続いている。ちょうど雑踏が向かう方向とも同じに見えた。

まっすぐ進んで、公園にあたる可能性があるなら、このまま理由のわからない人混みに紛れるよりは、確実にまっすぐ進めるこの道の方が信用できそうな気がする。

『行ってみよう。このままここで待っていたって、何も変わらない』

タッくんは、薄暗いビルの隙間にするりと入り込んだ。

さっきまでうるさいと感じていた雑踏のざわつきも、足音も、しだいに小さくなっていった。

かわりにぺたぺたとした自分の足音が響く。

それとガサガサした音も。

日の当たらない、じめじめとした薄汚い場所だった。

普段、人が入り込むような場所じゃないからかも知れない。足下にはどこからかやってきた黒くなったビニール袋や、忘れられた飲料水の抜け殻が、水たまりをつくって転がり落ちていた。

汚れたそれらを避けながら歩き、圧迫感のある左右の四角い外壁を見上げた。

影に飲まれて重い色をしたコンクリートが、建てられたビルの形に沿って上へとのびている。

その上には、通りの暗さとは対照的な明るい空が、行き先を示すように道なりに青い線を描いていて、目でたどると、奥には壁の末端である黒い切れ間があり、そこから晴れ渡った空が左右に分かれて広がっていた。

明るい光りを放っているようにもみえる、開放的なあの場所が、公園なのかもしれない。

そう思うと、自然と歩調が早くなった。

こんな風に離ればなれになっているわけにはいかないんだ!

―― 早くトウコを見つけなきゃ!

開けた空の一点を見つめながら、タッくんは拳をぎゅっと握りしめた。

イライラとした。

自分で決めたはずの約束事も守れないで、何をやっているんだろう。

これじゃあ、トウコを守れなかったあの日と同じだ。

あの日、トウコが怪我をしたのは、僕が気を抜いていたからだ。

バトル続きで体力もつき、疲れていたからとかといって、注意を怠っていいわけがなかったのに。

休んでいてと言うトウコに安心して、眠りはじめた時だった。トウコが高台から男に突き落とされたのは。

僕も、テリムも、ヒヤリンも反応が遅れた。

とっさにボールの外に、無理矢理飛び出すこともできたはずだ。

僕がツルをのばせば、トウコが落ちる前に間に合ったかもしれない。あんな怪我、させずにすんだだろう。

それなのに、あの日は体がボロボロで言うことを聞かなかった。

ジム戦をした後だからって、連戦だったからって、僕らがトウコを守らないでどうするのだろう。

ただでさえ、トウコは正義感が強いせいか、関わらなくてもいい事件に首を突っ込んでしまう性格だっていうのに。

テリムとヒヤリンが疲れて眠っていようと、リーダーの僕が、トウコから目を離していいわけがなかった。

僕がふがいなかったから、突如襲いかかってきたフシデの攻撃からも、トウコの身を守れず、あんな理由のわからない男のゾロアに救われて……。

思い出すだけでイライラしてきた。

『おまえは主も守れないのか?』

トウコを助けたゾロアが僕に言い放った言葉が忘れられない。

あんな状況だったからか、トウコもあの性格悪そうなゾロアの態度に気づいていなかったけれど、あいつは見下したような態度で僕に向かって言ったんだ。

ほんと腹が立つ。

あのゾロア、トウコといる時と全然、態度が違うし!

そうだよ、あの日の僕は弱かったし、油断していた。

いつでもトウコを守れるようになるには、全然、力が足りないことも悟った。

今の僕じゃ、トウコにまた何かあったら守れないかも知れない。

そう思ったら、急にボールの中にずっと入っているのが不安になったんだ。

ボールに入ったままじゃ、また気づけないかもしれない。