黒と白の狭間でみつけたもの (13)
だから、せめてボールの外に出て、トウコの側にいれば、少しは危険から守れるかもしれないと思って、ボールの中に入るのを拒否し続けてきたわけだけれど……。
でも、それもなぜか周りに心配をかけるようで、あのジムリーダーの家にいる間、トウコもアロエも、僕のことをやたらと哀れんだような目で見てくるから、どうしていかわからなくなって、それが嫌で、嫌で、つい部屋の隅に身を寄せてしまったりして……。
本当に、何やってるんだろう…。
大きなため息が出た。
結局、迷惑を掛けっぱなしだ。
僕らしくない。
後輩のテリムとヒヤリンには、あんまり気にするなと励まされて、リーダーの面目丸つぶれだし、トウコには心配かけてばかりで、これじゃあパートナー失格じゃないか。
今日なんて、あんな簡単なバトルすら調子崩れだし!
それなのに、みんな妙に僕に優しくしてきて、よけいに自分自身が腹立たしくなる。
みんなの優しさはうれしいけどさ…、あんなに優しくされたら、よけいにしょげるんだってば!
こんなつもりじゃなかったのに!!
『とにかく、今はトウコに追いつかないと!』
のほほんとしたあの2匹だけに、トウコをまかせておくのは心配すぎる。
またこの前みたいな、変な奴らに絡まれないとも限らないのだから。
もう絶対にあんなこと起こしたくないんだ!
はっきりと見えてきた青い空。
だんだんと、通路が明るくなってくる。
ようやく見えてきた、狭い通路の出口に向かって、タッくんは走り出した。
出口のすぐ側には、大きな木が緑の葉を空に延ばしていて、その木陰にはベンチらしきものも見えた。
きっと、公園に着いたんだと、足に力が入る。
明るい日差しの降り注いだ場所に飛び出した。
急に眩しいところに出たからか、少し目が眩んだ。
真っ白な光りに見えた。
でも、すぐにそれが反射したものだと悟る。
光っていたものは、表面に光沢がある、黒と白が交互に敷き詰められたタイルの床だった。
太陽の光で反射していたそれが、白い光にみえただけ。
ここは、飲食店の通りだろうか。
自然を多く取り入れるようにしたらしい広い通りは、大きな街路樹が所々にあって、その側にベンチが設置してあった。
そこで読書をしていたり、その場所がカフェテラスとなっている店もあるようで、辺りはのんびりとした空気に包まれている。
さきほどの通りほど、人が密集はしていないものの、人通りはそれなりにあり、カジュアルな格好をした若い人達が、ゆっくりとした歩調で行き交っている。
突然、道から飛び出してきたポケモンに驚いてか、何人かがタッくんの方を見ていた。
ここは公園じゃないとわかって、高揚していた気持ちが一気に冷めていくのを感じた。
『……道を真っ直ぐ進めば、公園に着くはずじゃなかったのか?』
人間が書いた地図なんて、僕には読めない。
ここが草むらや、森の中だったら、野生のポケモン達に聞きながら、トウコを捜すことだって出来るけれど、ここはそんなポケモンいないみだいだ。
どうすれば、トウコが言っていた公園の場所に行けるのだろう。
さっきの道に戻った方がいいのだろうか。
いや、あの人混みに紛れたところで、また流されるだけだろう。
どうせどこかに繋がっている一本道ばかりなら、この道をたどっても公園にたどり着くはずだ。
大きな通りだ。人が通るくらいだし、このまままっすぐ進めば、それらしい場所があるような気がする。
タッくんは、甘い香りが漂う、タイル張りの通りを歩き出した。
とりあえず、人の流れが多い方へ向かってみる。
周りは若いトレーナーが多かった。
こんな場所を、たった一匹で歩いているポケモンが珍しいのか、何人もが歩くタッくんを振り返り見てきたけれど、好奇な目を、今はいちいち気にしている余裕もない。
のんびりしていたら、トウコとすれ違いになってしまうことだってあるだろうし、とにかく先回りするくらいの勢いで、公園に着かないと!
明るいタイル張りの床を、足早に歩く。
道は整えられているせいか、とても歩きやすかった。
自然に囲まれた通りなのもあって、気分的にも少し楽だ。
人も多すぎないところもいい。
よくみると、トウコが雑誌で眺めていたような可愛らしいお店も多い。
もしかして、ここってトウコが行きたそうにしていた場所だったりするのだろうか。
ふと、トウコがここに来ていないかと思って、立ち止まってきょろきょろと辺りを見渡してみたが、やっぱりいなかった。
きっと、トウコだって今、僕のことを捜しているに違いない。
互いに動き回っているのだから、そう簡単に巡り会わないのなんて、当然といえば、当然なのに、なんだか意外とがっかりした。
ため息をついて、また並木通りを歩き始めたとき、カラフルな看板をした店がちらりと目に入ってきた。
何やらわいわい声がする。
人の騒ぐ声だ。
何をあんなに楽しそうにしているんだろう?
よくみると、人の行列が店の前に出来ていた。
列から外れて出てくる人は、みんな何かを手に持っていた。
口に入れているから、食べ物のようだ。
黄色い棒状のような、三角のような物の上に、カラフルな球体がのっている食べ物。
『あれ?アレって…』
歩きながら、美味しそうに食べているその食べ物には、見覚えがあった。
そう、確かアイスっていう食べ物。
冷たくて、甘いらしい。
「街に着いたら、みんなで食べようね!」と僕らに言って、トウコが本を見ながらはしゃいでいたのは、昨日のことだ。
3匹みんなに言っていたこと。
目印になるような、カラフルな看板もある。
ここってもしかして、すごくわかりやすい場所何じゃないだろうか?
もしかしたら、トウコもここに立ち寄って探しにきたりしているかもしれない。
あんな目立つ看板、なかなかないし!
トウコだって、僕を捜すときには、昨日のことを思い出すだろうし、僕が向かいそうな場所だってわかってくれる気がする。
だとしたら、もうここに来ている可能性だってあるかもしれない!
そう思って、タッくんは、期待しながら長いお店の列に駆け寄った。
いなかったらこのまま、道をまっすぐ行って、公園を捜そう。
栗色の長い髪のポニーテールで、白いTシャツに黒のベスト、青いショートパンツに、ピンクのバッグを持ってて…。
トウコの特徴を思い出しながら、列に近づいた時だった。
列に並んでいた若いトレーナー達や、観光客が、自分の姿をみてざわつき始めた。
普通、こんな場所にポケモンが1匹でふらふらしてもいないだろうから、珍しいのだろう。
気にしないようにしながら、並ぶ人の顔を確認していくが、トウコらしい人はいない。
列の最後尾から、前まで走りながら確認してみたが、栗色の髪の女の子を見つけたくらい。ハッとしたが、眼鏡を掛けている姿を見てがっかりした。
『なんだ、結局そう上手くはいかないか…』
やっぱり公園まで行ってみるしかないか、と思っていたときだった。
最前列にいた、目の前のトレーナーが、タッくんを指さした。
「あれって? ジャノビー? この子って誰かのポケモン?」
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (13) 作家名:アズール湊