ドキドキがとまらない ~ひとひらより~
☆響side☆
三年生が卒業してから4か月。
演劇部では恒例(?)となっている合宿が明日に控えている。
去年の合宿は色々な意味で悲惨だった。
『想い』と『想い』がぶつかりあい、終始どんよりとした雰囲気……。
今年は神奈さんが副部長で、木野君が部長……
何もなければいいのだけど……
「何で演劇部にいるんですか?」
去年、麻井さんにそう聞かれた。
『音楽が好きだから』
純粋にそれだけだと思ってたけど、なんだかんだで、私も『一人は嫌』という気持ちがあったのだと、それから気付いた。
麻井さんと、西田君は付き合っている。
他の人は分からなかったけど、私には何となくわかることがある。
『神奈さんも西田君が好きだった』
何で分かったのか?
自分でもわからない……。
ただ、去年の運動会での西田君を見る、神奈さんの視線とか、
麻井さんに対する敵対心みたいものとか……
全て不確かなものだ……
そういう意味でいうと、私のミケ先輩に対する気持ちもよくわからない……
『うざい』
そんな気持ちが先行していたときもあるけど、卒業して先輩がいなくなって、『この人をからかうのが……私にとってとても大事なことだった』ということが分かった。
からかうとは言葉が悪いけれども、つまり私は……
☆ミケSide☆
「お疲れ様でした!」
劇団『ならずもの』の練習が終わり、俺は帰る準備をしていると、
「そういえばさ、ちとせから、今年も合宿やるって連絡あったよ」
「うっ……ごめんなさい……」
「? 何、タマ謝ってんの?」
「だって、私が去年合宿を台無しにしたから……」
「いやいや、今年の話だし……なんかさ、先輩たちもいかがですか?って誘われたんだけど、私、学校の課題をやんなきゃいけないんだよね……」
「私はとてもいけないよ……」
綾瀬と玉城がそんなやりとりをしていた。
山口は、
「私もお盆はさ、花屋の稼ぎ時だし……無理だな……」
そういうとこちらに視線を向ける、
「ねぇ、ミケ君。ミケ君が見てきてくれない?」
玉城の言葉に、
「えっ? 何で?」
俺が返事をすると、
「だって、やっぱ……気になるじゃん……今年は上手くいくか……最終日だけでもいいからさ……」
「そんなこといわれてもな……」
俺が困惑していると、
「だって、ミケ、暇でしょ?」
「……まあ、一日くらいならなんとかなるけど……」
……
別に部活を見に行くのは一向に構わない。
ただ……
『あいつ』がいる……
『あいつ』を目の前にすると自分がなんだかわからなくなる……
最初は嫌われていると思ってたけど、
卒業式のときは、花くれたし、謝意はあるっていってたし……
それにその……
ほんの何回かだけだけど、『あいつ』の笑顔はとても魅力的で……
「よし! 決定、ミケ、行ってこい!」
最後は山口が結論を決め、俺は合宿の最終日にだけ、見学に行くことにした。
☆響side☆
合宿も2日目が終わろうとしている。
特段、これといった問題もなく、あとは寝るだけ……
そう思ってたところ、
「結局、麦チョコはさ、どこまでいってんの?」
神奈さんが、麻井さんに悪戯っぽく尋ねる。
「えっ? ど、どこって……」
「そのさ……キスとかはした訳?」
「えっ?」
麻井さんの表情を確認するとゆでダコみたいに真っ赤だった。
「……したんだな」
「……うう……ちとせちゃんの意地悪……」
そんなやり取りを神奈さんと麻井さんがしている。
特に興味もないので、私は布団を敷き、寝る準備を整えると、
「そういえばさ、響。明日、ミケ先輩が来るってさ」
ガタン。
私は、何もないところで転んでしまう。
「……なぜ?」
できるだけ、平静を保っていうと、
「何故って……。気になるんじゃないの?」
神奈さんがそういうと、
「何を……」
私が、さらに神奈さんを問い詰めると、
「いや……そんなのわかんないけど……」
「……じゃあ、私、寝ます……おやすみなさい……」
「って、オイ!」
神奈さんの声が聞こえたけど、相手にしないことにした。
何故って?
それは……今、多分私の表情は……真っ赤だと思うから……
ミケ先輩が来るっていうことにドキドキしている私がいる……
そんなの悟られたくない……
☆ミケside☆
「ふぅ~。しかし暑いな……」
滝のように出る汗を拭き、川崎たちが合宿しているであろう、ペンションまでやってきた。
……
言われるがまま、来てしまったけど……
アイツと逢うのは……ちょっぴり不安であり……そして嬉しくもある。
時折見せる、あの笑顔が見れるかもしれない。
そう思うと、不安より、少し嬉しいの方が勝るかもしれない。
「あっ! ミケ先輩!」
そういって俺に駆け寄ってきたのは、麻井さんだ。
「おっ、麻井さん! 元気そうだね。 ちとせと喧嘩してない?」
「……心配かけてすみません。今年は大丈夫です」
麻井さんは恐縮そうにそういう。
「って、アイツは……来てるんだよね?」
「? アイツって、誰のことですか?」
キョトンとして尋ねる麻井さんに、
「その……」
そういいかけた途端、
「お久しぶりです。先輩」
と機械的な口調で川崎が言う。
「お、久しぶり……元気にしてたか?」
「……はい」
「なんか、今日はその……大人しいな」
いつもだと、何かしら、俺にダメージを与えてくる川崎だが、なんか雰囲気が違う。
「……私は、神奈さんじゃありません……」
川崎がそういうと、
「ひっど! 響、それってどういう意味?」
ちとせが現れて、
「言葉通りの意味ですが」
ときっぱり言い切る。
うん。
ベースは多分変わってない。
やはり、『川崎』だ。
「ミケランジェロ先輩はお暇なのですか?」
「! それ、言うなよ!」
……
俺の暗黒史。
高一のとき、
俺は中二病を患っていた……
「俺はミケランジェロの生まれ変わりだ!」
そう叫んでしまい、演劇部でのあだ名が『ミケ』になってしまったのだ…・・
「って、川崎! それは内緒にしておけって……」
「? そう言われましたっけ?」
クスリ。
と響の瞳が悪戯っぽく輝く。
「そうだったんだ! ミケ先輩ってミケランジェロから……」
神奈がニヤニヤしながら、俺を見る。
「……まあそれはおいておくとして……、演劇の方、見せてくれよ」
そういい、ちとせに演劇の方を見せてもらった。
……
まあ、上手くいってんじゃないだろうか?
麻井さんもずいぶんしっかりと役になりきるようになったし、木野の台本はいいと思うし、川崎の音響もいいと思う。
「よかったよ! 今年の文化祭は大丈夫そうだな?」
「はい! なんたって私が副部長ですから!」
「プッ」
胸を叩いて、主張するちとせに思わずふいてしまう。
「……」
作品名:ドキドキがとまらない ~ひとひらより~ 作家名:kureha