ドキドキがとまらない ~ひとひらより~
なんか、無言の強い視線を感じ、振り返るとそこには、川崎がいた。
「か、川崎の音響もよかったよ!」
そういうと川崎は、
「そ、そうですか……」
と相変わらず、無表情な返事をする。
☆響side☆
なんでだろう?
私、ミケ先輩にあったら、もっと言いたいことがあったはずなのに……
いざ、本人を目の前にしてしまうと、何も言えなくなる。
「そ、そうですか……」
って、どこまで、ロボットなの、私!
って! 何これ、私……
どうなっちゃってるんだ?
ミケ先輩の言葉に混乱している私。
でも、そんなことを感じさせないよう一生懸命、平静を装う。
「なあ、川崎」
刹那、ミケ先輩が声をかける。
「何ですか?」
「お前……なんか、変だぞ?」
!
「そ、そんなことありません!」
「いやいや……俺、お前のことなら、他の奴よりは分かるつもりだし……って!」
ミケ先輩が後ろを振り返る。
後ろでは、神奈さんと武田くんがニヤニヤしていた。
「先輩と響ってそういう仲だったんですか?」
そう言われると、
「そんなんじゃなくてだな……。 い、いくぞ……川崎!」
そういうと私の手を取って走り出す。
??
一体何が起こってるの?
☆
「そのさ……悩んでいることがあったら、話聞くぞ……俺」
顔を真っ赤にしながらいうミケ先輩に、
「悩みなんてありません!」
強い口調で返す私。
なんというか、
私ってなんでこうなんだろう?
麻井さんみたいに、自分の心に素直になれたら、どれだけ楽なんだろう?
そんなことを考えていると、
「……言いたくないなら、話さなくてもいいけどさ……」
「……一つ質問してもいいでしょうか?」
「なんだ?」
「先輩は私のこと、苦手だと思ってるんじゃないですか?」
「……昔は、そう思ってさ、でも……今は違う。知りたいって思っている」
そういうミケ先輩の表情は真剣だ。
ドキドキドキ……
胸の鼓動が高鳴る。
うるさい、静かにしろ!
そう自分を言い聞かすと、
「あの……それはどう意味があるのでしょうか?」
「……意味か……それは、多分俺、お前のこと……気になってるんだ……だから」
そう言いかけた刹那、
「せ、先輩は私の心をうるさくさせる天才ですね」
「それはけなしてるのか?」
「いいえ。よく私のこと、理解しているっていう意味で……その……褒め言葉です……」
今、自分の表情を鏡で見たら、もっと混乱するだろう……
柄にもなく、真っ赤にして、はにかんで……
なんていうか……陳腐な少女漫画のヒロインみたいな……
そんな感じだと思うから
☆ミケside☆
「いいえ。よく私のこと、理解しているっていう意味で……その……褒め言葉です……」
そういう彼女の表情は、
一言でいうなら、『かわいくて』
もう一言でいうなら、『魅力的』
……
なんとなくは、気付いていた。
大学にいっても、なんか、川崎のこと気になってた。
だから合コンに誘われても行かなかった……
つまり、俺は……
響のこと……
「好きだ」
その一言を俺は川崎に言った。
暫くの沈黙のあと、
「ありがとう……ございます」
震えている声で精いっぱい話しているのが分かった。
「そんな礼を言われるようなことじゃ……」
俺がそういうと、
「私もその、好きです……」
その一言をいう、川崎が愛おしかった。
☆響side☆
「お疲れ様でした」
私は、何事もなかったかのように、ミケ先輩に言う。
「あ、いや……その……」
先輩が顔を赤くしながら言うと、
「? なんか、さっきから、ずっと赤いですよね? 響とどっかに消えてから」
そう神奈さんが指摘する。
「そ、そんなことないぞ……じゃあ、公演楽しみにしてるから!」
そういって帰路に付こうとする先輩に、
「ミケ先輩」
私は声をかけた。
「これからも宜しくお願いします」
……
本当は、
「今度はいつ会えますか?」
って聞きたかったけど、
皆がいる前でそんなこと聞けるはずもなく……
精いっぱい、そう伝えると、
「ああ。じゃあな! 響」
……
『ひびき』
そう名前で言われたことがとても嬉しかった。
これが、麻井さんならどうしたんだろう?
神奈さんだったから?
そんなことをずっと考えつつも、
嬉しくてたまらなかった。
ミケ先輩……
今度あうときは、
きっと……
(Fin)
作品名:ドキドキがとまらない ~ひとひらより~ 作家名:kureha