世界一初恋 高x律 葛藤
【SIDE 律 Aパート 1/6】 -------------------------------
「律」
「律」
高野さんに抱きしめられ、声が、鼓動が、体温が俺を包み込む
そして愛おしそうに俺の名前を呼ぶ
まるで俺の存在を確認するかのように・・・
いつも俺はこの人に流されてしまう
流されまいと頑なに拒否しても、この人を・・・高野さんを受け入れてしまう
入稿が完了し、三日ぶりの帰宅
俺は足元がふらつきながらも自宅マンションへ向かった
空腹なんて、この睡魔の前には意味をなさない
早くベットで安らかな眠りを堪能したい・・・
ガサガサと鍵を探していると、隣のドアからヌット腕が出てきたと
・・・思ったら、グイッと引っ張られ
呆気なく高野さんの腕の中に捕獲された
「なっ!なんですか!!」
俺は高野さんの腕を振り解こうとしたが、両肩を掴まれ内ドアに貼り付けられる
「おかえり」
高野さんは俺の声を無視して、耳元で甘く低い声で囁く
「はっ・・離してください!帰ります!!」
力強い高野さんの腕の中で身体をくねらせ脱出を試みるが、ビクとも離れない
「律が足りない・・・今日は一緒にいて?」
このまま一緒に。と高野さんは俺の腕を掴んで寝室へと向かう
抵抗しても、この人からは逃げられない
イヤ・・・本気で抵抗すれば振り解くこともできるハズだが、俺はこの人の腕を振り払うことができない
また流されていく・・・・
*
10年前、俺と高野さん--嵯峨先輩はほんの数カ月だったが付き合っていた
俺が一目惚れし、ストーカー紛いなことをして3年
この思いは一生心の中で終わらせようと思っていたが、
俺が高校一年の春、図書室で届かない本を嵯峨先輩が取ってくれて、
思わず溢れた出した思いを本人に告げてしまった
その後、放課後は図書室で、互いに本を読み、感想を述べ合い、
先輩の部屋で身体を繋げ、俺は幸せだった
しかし、俺の感違い(10年後に知ったのだが)によって、俺は酷く傷つき学校にも行けず留学をした
初恋だった。同性同士で付き合うなんて変だと思うだろう
でも、俺は本気で先輩のことが好きだった
もう二度と逢うことは無いと、広い世の中でそう偶然なんてあってたまるか
先輩との記憶は封印し、忘れるように努力した
でも・・・少女漫画のような出来事は、俺自身が体験してしまった
10年後、転職先の上司が高野政宗--旧姓嵯峨政宗
しかも、更新したばかりの部屋の隣人に住んでいた
10年前の俺なら、これは運命だ!と思うかもしれないが、今の俺は捻くれている
『もう一度お前に俺を好きって言わせてやる』
高野さんが再会間もなく俺に言った言葉
もう俺は誰も好きにならない!あんたなんか絶対に好きにならない!
そう思っても、高野さんから「好きだ」と言われると、心臓がキュッと締め付けられ震えてしまう
俺の心を引っ掻き回さないでくれ!
だけど、何重にも鎖で巻き付け、鍵を掛けた箱はいとも簡単にこじ開けられてしまった
学生のような純粋な気持ちだけで相手に「好き」とは伝えられない
あの頃とは違う。俺はもう社会人だ
世間体もある。お互いの立場や・・特に俺の家事情もある
廻りを顧みず、ただ自分の思いだけで突き進むことは出来ない。
高野さんの腕に抱かれながら、俺は悶々を考えていた
作品名:世界一初恋 高x律 葛藤 作家名:jyoshico