そら礫
狐火
「便利だなあ、それは」
同輩の家の祝いの席に呼ばれた帰り道、迎えに来たカイトの周囲に浮かぶ青い狐火を見ながら、がくぽはずっと感心しきりだ。
青い燐光は、手に持つ提灯などより余程明るい。
「我らは夜目がききますから、灯り自体は必要ないのですがね」
「“我ら”とは、お前のような狐は他にもたくさんいるのか?」
おりますよ、とカイトは言う。
「人がこの辺りに住む前から、俺の一族はこの地に住んでいるのです」
歩きながら、がくぽは青い光に照らされている横顔を見つめる。
「ところで気になっていたのだが、お前は歳は幾つなのだ」
「がくぽ様よりは、年上ですね」
「他の一族の者も皆、長生きなのか」
「はい、百年生きる者もおります」
「皆が化けて人語を話すのか」
「十年も生きれば化けます」
「そういえば」
ふと浮かんできた記憶を手繰って、がくぽは暗い夜空を見上げた。
「昔よく家の庭に狐が遊びに来ていた。残り飯などくれてやっていたが、よく慣れて、呼ぶと姿を見せるし、人の顔など覚えているようだった。あれもお前のような狐だったのかも知れぬ」
「――この先ぬかるんでおります。お気を付けを」
先導するように、カイトは少し足を早めて、がくぽの前を歩いた。
狐火も、ふわふわと夜道を生き物のようについて行く。
「一族は人の前に姿を現すのを避ける者が多いですから、只の狐にございましょう」
「分らぬだろう。確か眼の色が瑠璃のような青をして、お前と似ていたから、所縁(ゆかり)の者ではあったかもしれん」
きっと其奴は変わり者だったのだとがくぽが言うと、そうかもしれません、とカイトは顔を見せぬまま笑った。