そら礫
しばらく後、がくぽ宅である。
「それでどうなったのです」
がくぽが読みたいと所望していた本が手に入ったので、それを手に珍しくキヨテルの方から出向いたところ、近江屋の件が解決したと聞かされたのである。
「お駒殿は暇を出されて家に帰されたよ。同時に怪異は収まった。お駒殿に憑いていたオサキが騒ぎを起こしていた訳だからな」
「お駒さんは店を辞めさせられてしまったのですか」
がくぽは頷いた。
「まあ、子が出来た女を追い出そうとした男と一緒になっても碌な事はあるまいから、良かったのではないか?母子の生活の面倒は責任を持ってみると尾形殿は言っていたし。まず立派な方だよ。この件で息子の方も性根を入れ替えればいいのだが」
歳が上であろう者をつかまえてひどい言い様であるが、この場合は許されもするだろう。
「お駒さんは幸せになるといいですね」
「ああ。オサキの言った通りの娘なら、すぐに良い縁も見つかろう」
「…まあそれはそれとしまして」
全ての顛末を聞いたキヨテルは心底残念な思いを込めて言った。
「礫が降る様この目で見たかったのに本当に残念です。オサキとやらも姿だけでも筆で書き留めたかったですねえ。ああ、ついでにカイトさんが狐から人になるところも見たかった…」
するとがくぽはそんな事と朗らかに笑った。
「別に減るものではなかろうし、頼めば見せてくれるのではないか」
「見せてくれますか」
「平気じゃないか?多分」
「色々と調べてもみたいのですけれど、よろしいですか」
「拙者から口添えしよう」
獣の聴覚で耳聡く会話を聞きつけたカイトが、慌てて廊下を引き返したのは、二人の知らぬところであった。