If ~組織の少年~
その後、なんの変更もなくシルアの裁判は行われた。そしてそこで言い付けられた判決はシルアが予想していないものだった。
隔離施設への一年間の生活とその後十年間の執行猶予。
それがシルアに言い渡されたシルアの処分。
言い換えれば、隔離施設で一年間しっかり勉強すれば十年間の執行猶予を与えようということだ。
なんとも甘い判決だ、と思ったが、どうやら裏でクロノがいろいろやってくれていたらしい。
シルアが幼い頃から組織に育てられ犯罪を強要されていたこと、本人に反省の意思があり公正する意思があること、そして本局襲撃において活躍したこと。
これらが考慮されてシルアは今にいたる。なんとも監獄としてのイメージにそぐわない場所で毎日社会というものについて勉強している。
それでわかったことだが、シルアはものすごく常識がなかった。教師を担当している局員が呆れるほどだ。
そして今日はシルアに面会の希望がきていた。
いや、今日もというべきか。
「アレル、聞いてるの?」
「ああ、聞いてるよ」
今日もフェイトはシルアの元にやってきては、「今日学校で――」とか、「この前仕事で――」とか、近状を話している。
管理局ではフェイトはかなり優秀で、忙しいと聞いたが、本当はかなり暇なんじゃないか、と思う。なんせ、毎日のようにここに来ている。
「なぁ、テスタロッサ。毎日、俺と話してて楽しいか?」
正直言ってシルア自身、気の利いた話なんてできないし、フェイトの喋らせてばかりだ。それで楽しいと感じるのか、と疑問に思っていたのだが、
「うん、楽しいよ」
とフェイトが満面の笑みで答えるので、気にしないことにした。
「それでアレル。そのテスタロッサっていう呼び方なんだけど……」
面会時間が残りわずかになったとき、フェイトが切り出してきた。
「そろそろ、違う呼び方でもいいんじゃないかな?」
呼び方を変えろということか。
「ハラオウンとかか?」
フェイトの顔がムッとなった。不満らしい。
「それじゃあ、フェイト……か?」
呼ばれた瞬間、フェイトは顔を赤する。
恥ずかしいくらいなら呼ばせなきゃいいのに。
「う、うん。それがいいかな? うん、それがいい」
どうやらご満悦のようだ。
それならこちらの要望にもこたえてもらおう。
「なら、俺のことはシルアでいい」
「え?」
「アレル・ミルトンは俺が考えた偽名だ。俺の本当の名前はシルアだ」
正確に言えばシルアも偽名だ。組織内での呼び名であって、コードネームでもある。この名前は自分にとって組織の一員だったという証であり、罪を犯してきたという証だ。
だからこそ、この名前は捨てられない。これから罪を償う自分に必要不可欠なものだ。
「わかった、シルア」
それを理解してかどうかはしらないが、フェイトは何も訊かなかった。
本当に自分は幸せものだと思う。心が闇に蝕まれ、自分が駄目になる前に自分を理解してくれる人と出遭えた。小さな約束を守るのを待っていてくれる人がいる。そんな存在がこんなにも心の支えになり、自分を救ってくれた。
本当にフェイトには感謝してもしたりない。だから、せめて願おう。
これからの彼女の日々が幸せであることを――。
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作品名:If ~組織の少年~ 作家名:森沢みなぎ