けいおん! LOVE!LOVE!LIVE! 〈1〉
――これは父さんが高校の時から使ってるのでな……。
前の親父が幼い俺に笑顔で手に持っているギターの事を説明してくれている事を思い出す。
だが、その話の先が思い出せない。だが、その手に持っているギターはよく覚えている。
今俺の目の前にあるのがそのギターだ。だが何故。
俺は回れ右をして、レジへ走り出す。
「なああんた!あの赤と黒のギターって中古だよな!?」
「え、あ、はい……、1週間前に買い取りした商品ですが……」
鼓動が高鳴り続ける。嬉しさでも怒りでも悲しみでもない鼓動だ。
間違いない、俺の……あの優しかった親父が……、この街にいる。
中学の時、あの女から親父は行方不明になったと聞いていた。
あの時は対して気にしていなかったが、あいつらが消えてから少し気にするようになっていた。
そして……、その親父の行方に関する重要な手掛かりが手に入った。
「その売っている人の住所とか分かるんですか!?」
「い、いえ……、買い取り時には当店では身分証明証を提示していただくだけで……」
店員からは残酷な答えが返ってきた。
「……そうですか……」
一気に俺のテンションが下がり、鼓動も鎮まる。
「なあ遼祐、どうしたんだよ?」
「あのギターの持ち主、知ってるのか?」
みんなが心配そうにこっちに歩み寄ってくる。
……ここで、俺の過去喋ってもしょうがないか。
「なんでもないよ、知り合いがあのギターと似たようなの持っててな……」
適当にごまかす。さっきも言った通り過去を喋っても何の意味がある。むしろ変な眼で見られるかもしれないし、
気を遣わせてしまうかもしれない。そう思うと、なんか喋りたくなくなる。
「あ、すいません、その……」
俺は悩む。あのギターを購入するかどうか。
正直あんまり欲しくはない。あのギターには色々と嫌な思い出が詰まりすぎている。
……俺は決意した。
「あのギター、ください」
俺が改めて、軽音部に入部した瞬間だった。
そして、同時に親父の行方を追う事を決めた瞬間だ。
「あんた、そのギター……!」
部屋に入ってきた姉貴がいきなりこの一言を口にする。失礼します、とか言えよ。
「なんだ、姉貴も覚えてたのかよ」
「当たり前でしょ……!でも、なんでそれが……」
俺はとりあえず経緯を解説する。
解説を終えると、姉貴が溜息をついた。
「これが運命だと思うと、アンタもつくづく不幸だねえ……」
なんでだよ。
「だって、そのギターには色々と嫌な思い出が詰まってるでしょ」
まあ、それもそうだが。
「でもさあ、嫌な思い出ったって、あの人(本当の親父)自身に嫌な思い出はあんまないだろ」
「……そう言われてみれば……そうだけど……」
「それにさ……」
言葉を続ける。姉貴は疑問を抱える顔をする。
「あの人(本当の親父)、この辺にいるかもしれないしさ、俺、知りたいんだよ。なんで、あの二人(本当の親父とあの女)が離婚したのか」
あそこから俺たちの運命は狂い始めた。
たとえ過去を変えられないにしても、真実だけでも知りたいだろ?
「このまま永遠に謎にしとくのは、後味悪くて嫌なんだよ。だから、俺はあの人(本当の親父)を見つけて、真相を聞く」
――それが例えどんな真実でも、俺は前みたいに戻ったりしやしない。
「……分かった。好きにしな。んじゃアタシ風呂入るから」
「はいはい……」
姉貴が俺の部屋の扉を閉めると、部屋の端っこに置いてある、親父のギターを見る。
――これは父さんが高校の時から使ってるのでな……。
「……その後の言葉がなんだったか忘れたんだよなあ……、なんだっけかなぁ……」
そこに何か真相を解くヒントがありそうな気がする。
……駄目だ。思い出せない。
「……あ~、もういい!」
そんな事いつか思いだすはずだ――そう思いながら俺はギターを手に取る。
久しぶりにギター触るなあ……何年ぶりだろうか?
適当に音を鳴らしてみる。
……エレキギターなのでアンプに繋がないとやっぱり派手な音は出ない。
まあ、別にこのままでもいいか。
何か弾こうかと曲を考えていると、この前パソコンで見たあるゲーソンの弾いてみた動画的な物を思い出した。
確かあれの説明文のところに、楽譜が載ってるサイトがあったな。
パソコンを起動し、その楽譜を見る。
まあリハビリのつもりで弾けるようにしてみるか。
「ここがこうであるからにして……日暮君?」
うるさい。寝かせろ。眠いんだ。
黒板の前に立って、訳のわからない事をぼそぼそと呟いている女教師の言葉を無視し、狸寝入りする。
唯がシャーペンで背中をつついて起こそうとするがそれでも無視。
浩史が小声で起こしてくるが無視。
和が指でつつくが無視。
「ノインツェーン、もう……」
浩史がいきなり何かを言いだすかと思えば、俺がアニメ・ゲーム史上最も好きなあの熱い名ゼリフの言いかけではないか……。
俺の中に眠るゲーム・アニメ大好き(オタク)魂に火が付き、いきなり飛び起き
「終わりにしようっ!!」
続きを言う。
……みんな何故か変な眼でこっちを見ている。
しかし何人かの男子は俺の方を輝いた瞳でこっちを見る。
こいつら元ネタ知ってるな……、まあ見た目から知ってる感全開であるが。
俺を最初に起こしてきた女教師をふと見ると、泣きそうな目でこちらを見てくる。先生も知ってるのか?、いや違うか。
溜息をつき、手で『どうぞお続けください』と手でジェスチャーを出し、意思表明すると、俺は席へ着く。
女教師はその後、また訳のわからない言葉をべちゃくちゃと話し始めた。
また同志が増えそうだなと心の片隅で思いながら意味不明な言葉を無視し、窓から外を眺める事にした。
「お、ギター持つとさまになってるじゃん」
ふふふ、そうだろう?
律に褒められながら、俺は口元で微笑みを浮かべる。
ちなみに現在放課後で、今いる場所は部室である。
「何か弾けるのか?」
弾けるよ。昨日練習したのが。
俺はピックを持つと、深呼吸し、
「行くぜ!俺の歌を聞けぇぇぇ!!」
……決まったな。
曲が終了すると、部室が拍手でいっぱいになる。
「すげえ~!ホントに初心者か!?」
あれ、言ってなかったっけ?俺経験者だぞ?
そう笑いながら言って、ギターをスタンドへ置き、席へ着く。
「唯はどうだ!?」
律が唯の方へ向きながら何か1曲!と同じ意味の言葉を言い放つ。
唯はギターを持ち、ピックを持つと、弦にそれが触れる。
どんな曲が流れるか俺も楽しみにしたが、残念。期待外れだ。
しかも曲どころじゃない。
「チャルメラかっ!」
昔懐かしいメロディだ。ああ、なんか色々と悲しいよ。あはははは……。
「やっとスタートだな……」
澪が意味深な事喋りはじめる。まったくその通りだ、と澪の言葉に同感する。
「俺たちの、軽音部が」
「目指すは武道館!」
やっぱりやりやがったこの空気ブレイカー律め。
いくらなんでもそりゃ難しいだろ。一流アーティストが苦労の末、やっと立てるステージなんだぜ?
余談だが俺は武道館へ行った事あるぞ。水樹奈々さんのライブで。
「その為には練習あるのみだよみんな!」
唯が珍しくまともな事を言う。
「じゃ、がんばりましょう!」
紬も賛同する。
作品名:けいおん! LOVE!LOVE!LIVE! 〈1〉 作家名:伝説・改