ゲゼルシャフトの犬
「今期のコメコン輸出計画についてだが、我が国は3割減だ。原材料の余剰がある国は回してくれ。以上だ」
「僕の方からは回せないなー。フェリクスくんのところとかどう?」
ナターリヤの発言にイヴァンが困った様子も無く笑顔で言った。
「余剰なんてあるわけないしー…」
ふてくされたポーランドが会議机に足を投げだして椅子をうかせた。
「ナタちゃん、ごめんねー…お姉ちゃんのところもカツカツなのー、頼りないお姉ちゃんでごめんねー…」
ライナが胸部からけたたましい音を鳴らしつつ半泣きで妹に向かって手を合わせる。
「ギルベルトくんは?」
イヴァンの言葉にしかめっ面で書類を睨んでいたギルベルトが顔を上げた。
「そりゃあこの時節、どこもギリギリだ。余剰があるわけねーだろ…」
そう言って銀髪をガシガシとかく。
「だが…そうだな、工場を一つ閉鎖するからそこの在庫分を回そう」
ナターリヤがその言葉にギロリと目を向いた。
「そうか、恩に切る」
言葉とは裏腹に表情は冷徹さを崩そうとしない。
自分以外に無愛想な妹に代わってイヴァンが親しげにギルベルトの肩に手を置いた。
「君なら何とかしてくれると思ったよ、さすがだね『優等生』」
その言葉にギルベルトは「当然だろ」とふてぶてしく笑った。
「じゃあ、次は私の報告ね、ウチでも西への亡命が多くて最近取り締まりが…」
「イヴァンさん!大変です!!」
ライナの報告をさえぎり、会議室に喧しい音をたてたのはエドァルドだった。
普段温和な彼の取り乱した様子にイヴァンが不思議そうに尋ねる。
「どうしたの?」
「ハンガリーで武装決起です!!」
走ってきたせいで荒い息のままエドァルドが言った。
「またあの女か…!何度兄さんに楯つけば気が済む…!!」
ナターリヤが眉間にしわを寄せ、憎しみのこもった声音で呟く。
「エリザベータ…」
旧い時代から付き合いのあるフェリクスが心配そうな表情で名前を呼んだ。
それを聞いてギルベルトが思いっきり舌打ちをする。
「心配はいらない」
ざわめく会議室にイヴァンの声が静かに響いた。
表情こそ笑みを浮かべているものの、その目には氷よりも残忍な青白い光が灯っていた。
「すでに鎮圧部隊は向かわせているよ、そろそろ向こうに到着するんじゃないかな?」
雪の帝王はにっこり笑うと楽しそうに舌なめずりをした。
「僕に歯向かうような悪い子は…衛星国じゃないよね?」