Mr.stripper Charles
「この通りお願いっ!」
エンジェルに拝むように頼まれたのはこれで何度目になるのだろう。
「エンジェル、君の願いはできる事なら叶えてあげたいよ。けれど、こればかりは…」
チャールズも何回目になるであろう、エンジェルの頼みを柔らかく拒んだ。
彼女の頼みとはストリッパーの短期アルバイトについてだった。エンジェル曰く先日まで働いていた同期の子達がつい最近、ぞろぞろと辞めていってしまい人手が足りなくなってしまったという。
辞めていった理由は様々あるようだが彼女から聞いた話によると多くは「『肌をさらす必要のない』仕事に採用された」とのこと。
そこで、短期でいいからとチャールズが依頼されたのだ。しかし、当の本人は納得する筈もなく。
「そもそも、男である僕にストリッパーを頼むのは根本的に間違ってると思うんだけど…」
「あら? 男性でもストリッパーを仕事としてる人はいるけど」
エンジェルがキッパリと返す。やれやれというのが正直な本音だ。
「だいたいなんでこいつなんだ。別にチャールズじゃなくても勤まるだろ。」
今まで黙って聞いていたエリックが口をだす。彼の頼もしい助け船にホッとしたのも束の間。
すかさずエンジェルも反論。
「わかってないわね、エリック。だからこそよ。」
エンジェルの指差す方向がチャールズへと向かれる。それから得意気にエリックの顔を見遣る。
「チャールズの容姿って所謂中性的なものなのよ。確かに男性ではあるものの、女性にも見えなくないもない筈よ。だってほら、あんなに大きくって青い瞳なんてウチのクラブでも未だ見たことないし、唇なんか口紅つけたみたいに真っ赤じゃない。そもそも男性であるのが不思議なくらいよ。ああ、下手したら町中にいるそこら辺の女子達より綺麗だっていうのに勿体無いことこの上ないわ!」
「…話が違う方向に展開しているぞ」
会話の途中で半ば暴走しかけているエンジェルにエリックの的確なツッコミが入る。それも無視して、折れることなくエンジェルは悲願し続ける。
「お願い! チャールズ! 本当に今人手不足なの。このままじゃ店にも影響が出てきちゃうし…じゃあわかった! どうしても無理だったら明日だけでもいいから! ねっ」
そうまでも言われると断るのも気が引けてくる。エンジェルは本気で困っているみたいだ。そうまでしてほっとけるほど自分の意思は強くない。
迷った末、盛大に溜め息を吐いてから、チャールズは答えた。
「…わかった。やってみるよ。だけど本当に今回っきりだからね」
***
3日後、チャールズとエリック、エンジェルで彼女の働いているストリップクラブへと行った。
軽快な音楽が大音量で流れる中、躍り子達が華やかに踊る。
色とりどりのスポットライトに照らされながらダンスをする美女達に釘付けになっている男達。
ここの店は以前、ミュータント探しのスカウトの時に一度足を運んだ。
エリック自身も実際この手の店は嫌いな訳ではない。
しかし、友の『女装姿』を見る形で再び行く事になるとは思いも寄らなかった。
「着替え室はどこなんだい?」
あそこよ、とエンジェルが案内する。店の奥に『スタッフオンリー』と書かれた札が掲げられている扉へと入っていく。更に扉が分かれていく中、奥から3番目の右側のドアへと向かう。エンジェルがドアノブを回して開くとそこには正に着替えの真っ只中である若い女達が。中には既に裸になっている者まで混じっている。
エリックは一瞬驚きはしたものの、特になんとも思わなかった。
踊り子の彼女達からも、悲鳴が向けられるかと思ったがチラッと、目を遣っただけで誰も気にも留めなかった。
一方、隣にいるチャールズは唖然としたまま立ち尽くしている。
「あらかじめ、彼女達には言ってあるから大丈夫よ。安心して」
安心させる為なのかエンジェルが固まっているチャールズの肩をポンポンと叩く。
もっと根本的な事を気にしているのは確かだが。
「ここで、着替えるわよ」
ただでさえ驚いているチャールズが更に驚いた表情を見せる。
大勢の女性がいる中で、戸惑いながらチャールズがぽつりと呟く。
「出る前に着替えしとけばよかったなぁ…どうして前以て下着を渡してくれなかったんだ?」
「わざとよ。秘密にしておきたかったの。当日までのお楽しみな感じでいいじゃない。」
苦笑いを浮かべるチャールズ。口の端が引き吊っている。
「昨日今日見せたところで同じなんだから。変わりゃしないわ」
そう言いながら今まで肩にかけていた黒の大きめのバックを下ろす。中を探っている。専用の下着を取り出しているのだろう。
「で、例の衣装は?」
「今取り出してるからちょっと待って…あった!」
どうやら見つかったらしい。エンジェルの手が止まり、欲しかったおもちゃが見つかった時の子供みたいに目を輝かせた。
「はい、これが衣装よ」
が、対してチャールズの方は顔を真っ青にしていた。エリックも然り、驚愕するしかなかった。
それもそうだ。何故ならエンジェルが手渡したのはどこからどう見ても女性物の下着以外の何物でもなかったのだから。
今にも泣きそうな面をしつつ、恐る恐るチャールズが問う。
「これを…僕が着るのかい?」
「ええ、そうよ」
「でもこれ、明らかに女性物の下着だよね」
「当たり前じゃない。ストリップクラブで男性物の衣装見てて興奮する訳ないじゃないの」
「え…でも、男性のストリッパーでもまさか女装してやるだなんて訳ないよね、」
「つべこべ言わずにさっさっと着替えなさいよ!」
エンジェルに怒鳴られ、体をビクッと震わせながら情けないほど小さな声で「はい…」と返事をするチャールズの姿にエリックは最早同情するしかなかった。
***
裸体混じりの女性陣の中で着替えなければいけないのかと思えば実際は更に端の所に試着室があってそこで着替えるとのことだった。
「ここで着替えるなら最初から言ってくれればよかったのに」
溜め息を吐きつつそう一言漏らしていたが表情は明らかに先程より安堵の色が強く現れていた。
試着室に入ってから数分後、エンジェルがカーテンに頭を突っ込みながら「もうそろそろ出てきたらー」と声をかける。一方、向こうからは「いやっ…」っと弱気な返事が聞こえてくる。
「いいじゃない、結構似合ってるし。出てきても全然違和感ないわよ。それにしてもホント可愛い…なんか悔しい」
それでもチャールズはまだ出る気はなく弱々しく拒み続けている。
「あー! もういい加減出てきたらいいじゃない! 勿体振るなんて!」
叫びながらエンジェルがカーテンを乱暴に開ける。
カーテンの向こう側に露になったチャールズの女装姿。
白いレースやフリルがふんだんにあしらわれた、黒地の女性用ビキニに模した衣装。チャールズの華奢な体には驚くほど似合っていた。
頭には白と黒のリボンがついたヘッドドレスを。上半身の部分は胸の中心に、これまた白と黒を強調した小さな蝶ネクタイが。
エンジェルに拝むように頼まれたのはこれで何度目になるのだろう。
「エンジェル、君の願いはできる事なら叶えてあげたいよ。けれど、こればかりは…」
チャールズも何回目になるであろう、エンジェルの頼みを柔らかく拒んだ。
彼女の頼みとはストリッパーの短期アルバイトについてだった。エンジェル曰く先日まで働いていた同期の子達がつい最近、ぞろぞろと辞めていってしまい人手が足りなくなってしまったという。
辞めていった理由は様々あるようだが彼女から聞いた話によると多くは「『肌をさらす必要のない』仕事に採用された」とのこと。
そこで、短期でいいからとチャールズが依頼されたのだ。しかし、当の本人は納得する筈もなく。
「そもそも、男である僕にストリッパーを頼むのは根本的に間違ってると思うんだけど…」
「あら? 男性でもストリッパーを仕事としてる人はいるけど」
エンジェルがキッパリと返す。やれやれというのが正直な本音だ。
「だいたいなんでこいつなんだ。別にチャールズじゃなくても勤まるだろ。」
今まで黙って聞いていたエリックが口をだす。彼の頼もしい助け船にホッとしたのも束の間。
すかさずエンジェルも反論。
「わかってないわね、エリック。だからこそよ。」
エンジェルの指差す方向がチャールズへと向かれる。それから得意気にエリックの顔を見遣る。
「チャールズの容姿って所謂中性的なものなのよ。確かに男性ではあるものの、女性にも見えなくないもない筈よ。だってほら、あんなに大きくって青い瞳なんてウチのクラブでも未だ見たことないし、唇なんか口紅つけたみたいに真っ赤じゃない。そもそも男性であるのが不思議なくらいよ。ああ、下手したら町中にいるそこら辺の女子達より綺麗だっていうのに勿体無いことこの上ないわ!」
「…話が違う方向に展開しているぞ」
会話の途中で半ば暴走しかけているエンジェルにエリックの的確なツッコミが入る。それも無視して、折れることなくエンジェルは悲願し続ける。
「お願い! チャールズ! 本当に今人手不足なの。このままじゃ店にも影響が出てきちゃうし…じゃあわかった! どうしても無理だったら明日だけでもいいから! ねっ」
そうまでも言われると断るのも気が引けてくる。エンジェルは本気で困っているみたいだ。そうまでしてほっとけるほど自分の意思は強くない。
迷った末、盛大に溜め息を吐いてから、チャールズは答えた。
「…わかった。やってみるよ。だけど本当に今回っきりだからね」
***
3日後、チャールズとエリック、エンジェルで彼女の働いているストリップクラブへと行った。
軽快な音楽が大音量で流れる中、躍り子達が華やかに踊る。
色とりどりのスポットライトに照らされながらダンスをする美女達に釘付けになっている男達。
ここの店は以前、ミュータント探しのスカウトの時に一度足を運んだ。
エリック自身も実際この手の店は嫌いな訳ではない。
しかし、友の『女装姿』を見る形で再び行く事になるとは思いも寄らなかった。
「着替え室はどこなんだい?」
あそこよ、とエンジェルが案内する。店の奥に『スタッフオンリー』と書かれた札が掲げられている扉へと入っていく。更に扉が分かれていく中、奥から3番目の右側のドアへと向かう。エンジェルがドアノブを回して開くとそこには正に着替えの真っ只中である若い女達が。中には既に裸になっている者まで混じっている。
エリックは一瞬驚きはしたものの、特になんとも思わなかった。
踊り子の彼女達からも、悲鳴が向けられるかと思ったがチラッと、目を遣っただけで誰も気にも留めなかった。
一方、隣にいるチャールズは唖然としたまま立ち尽くしている。
「あらかじめ、彼女達には言ってあるから大丈夫よ。安心して」
安心させる為なのかエンジェルが固まっているチャールズの肩をポンポンと叩く。
もっと根本的な事を気にしているのは確かだが。
「ここで、着替えるわよ」
ただでさえ驚いているチャールズが更に驚いた表情を見せる。
大勢の女性がいる中で、戸惑いながらチャールズがぽつりと呟く。
「出る前に着替えしとけばよかったなぁ…どうして前以て下着を渡してくれなかったんだ?」
「わざとよ。秘密にしておきたかったの。当日までのお楽しみな感じでいいじゃない。」
苦笑いを浮かべるチャールズ。口の端が引き吊っている。
「昨日今日見せたところで同じなんだから。変わりゃしないわ」
そう言いながら今まで肩にかけていた黒の大きめのバックを下ろす。中を探っている。専用の下着を取り出しているのだろう。
「で、例の衣装は?」
「今取り出してるからちょっと待って…あった!」
どうやら見つかったらしい。エンジェルの手が止まり、欲しかったおもちゃが見つかった時の子供みたいに目を輝かせた。
「はい、これが衣装よ」
が、対してチャールズの方は顔を真っ青にしていた。エリックも然り、驚愕するしかなかった。
それもそうだ。何故ならエンジェルが手渡したのはどこからどう見ても女性物の下着以外の何物でもなかったのだから。
今にも泣きそうな面をしつつ、恐る恐るチャールズが問う。
「これを…僕が着るのかい?」
「ええ、そうよ」
「でもこれ、明らかに女性物の下着だよね」
「当たり前じゃない。ストリップクラブで男性物の衣装見てて興奮する訳ないじゃないの」
「え…でも、男性のストリッパーでもまさか女装してやるだなんて訳ないよね、」
「つべこべ言わずにさっさっと着替えなさいよ!」
エンジェルに怒鳴られ、体をビクッと震わせながら情けないほど小さな声で「はい…」と返事をするチャールズの姿にエリックは最早同情するしかなかった。
***
裸体混じりの女性陣の中で着替えなければいけないのかと思えば実際は更に端の所に試着室があってそこで着替えるとのことだった。
「ここで着替えるなら最初から言ってくれればよかったのに」
溜め息を吐きつつそう一言漏らしていたが表情は明らかに先程より安堵の色が強く現れていた。
試着室に入ってから数分後、エンジェルがカーテンに頭を突っ込みながら「もうそろそろ出てきたらー」と声をかける。一方、向こうからは「いやっ…」っと弱気な返事が聞こえてくる。
「いいじゃない、結構似合ってるし。出てきても全然違和感ないわよ。それにしてもホント可愛い…なんか悔しい」
それでもチャールズはまだ出る気はなく弱々しく拒み続けている。
「あー! もういい加減出てきたらいいじゃない! 勿体振るなんて!」
叫びながらエンジェルがカーテンを乱暴に開ける。
カーテンの向こう側に露になったチャールズの女装姿。
白いレースやフリルがふんだんにあしらわれた、黒地の女性用ビキニに模した衣装。チャールズの華奢な体には驚くほど似合っていた。
頭には白と黒のリボンがついたヘッドドレスを。上半身の部分は胸の中心に、これまた白と黒を強調した小さな蝶ネクタイが。
作品名:Mr.stripper Charles 作家名:なずな