SAO二次元創作【魔女と呼ばれた処刑者】1-1
途端に男の表情が戦慄で青ざめ、わたしは容赦なく投剣を宝箱に投げた。
「ひ!?や!!いやだ!!死にたくない!!!待ってくれえ!!!」
砕けたトレジャーボックスが悲鳴の様にアラームを鳴らし、扉は閉まり、直後…男の悲痛な断末魔と硝子が砕ける音が響き渡り、扉が開かれると何も無くなった空間が、ただ虚しく広がっていた…。
わたしはそれからタクトの遺品を抱え、耐久値を失っていく鎧を抱いたまま…町へと戻った、しかし…オレンジ色となった私を見たNPCは、直後わたしに向かって武器を構え突進してきたのだ…死ぬ事は恐れてはいなかった…だが、タクトの遺品を埋葬するまで…わたしは死ねない…そう考えて…NPCから逃げ出し、47層のフィールドをただ彷徨い続けた…途中で耐久値を失った鎧が光の粒となり消えた…次には重槍が、盾が、小手が、脚絆が…次々と耐久値を失い光の粒となって消え…その度にわたしの心を酷い喪失感が襲う…。アイテムストレージに止めて置けばよかったかもしれない…、しかしわたしは、アイテムストレージにある彼が死ぬ間際まで身につけていた鎧や武器から、彼の温もりを感じようとしていた…否、本当の所はそれを見ていたら現実から逃げたくなってしまうからかもしれない。こんな事ならば始まりの町で叩き帰してしまうべきだった…深い後悔が槍の様にわたしの胸を貫き、抉り…血の変わりに涙がとめどなく流れ続ける。そうして彷徨い歩いた最後にたどり着いたのはアインクラッドの浮遊城から空を見渡せる断崖…。
「……タクト…わたしも直ぐに行くよ…」
わたしは死を決意した、一人より二人の方が良いだろう…傷心のわたしは軽くそう考え、身を乗り出そうとした…が、直ぐに誰かにか細い指で後ろに引かれ…わたしは無惨に仰向けに倒れてしまった。わたしは即座に槍を構えて身を起こして、引いた何かに身体を向ける…。
「………お前か」
そこにはいつぞや干し肉を与えた白いワンピースの女の子が立っていた。
「………」
女の子は出会った頃と同じく無言でわたしを見つめ、小さく首を横に振る…。彼女はわたしに死ぬな…というのだろうか…。
「ふざけるなっ!!!…」
わたしは弾けるように怒鳴っていた、自分でも不思議な位、真剣に…。
「わたしはこの世界で命より大切なものを失ったんだぞ!!そんなわたしにまだ生きろと言うのか!!?戦えというのか!!!」
しかし、わたしがひとしきり怒鳴りつけた時には、女の子の姿は何処にも存在しなかった。
幻覚か…わたしはより惨めになり心が痛みはしたものの…再びアインクラッドに広がる断崖に身体を向けた。今度こそタクトを迎えに行こう…そして、毎日を二人で生きよう。わたしはそう身を乗り出そうとした時。
『先生!狩りの時間ですよっ!さっさと支度しないと!!』
わたしの耳にタクトの怒ったような声が響いたわたしは驚き、腰を抜かしてアラームに目を向ける。時刻は19時ジャスト…タクトを残して最前線に赴く際、タクトがわたしの寝坊を恐れ、わたしが寝ている間にわたしの手を勝手に使い設定した音声アラームだった。
「そう…か…」
わたしは涙を拭い去り、一際強く空を睨む。
「そうだ…狩りの時間だ…タクト…まだ何も終わってはいなかったな…」
そして私は生きる事を決意する、そしてタクトのようにプレイヤーによって無残に殺される者がいなくなるにはどうしたらいいか…必死に考えた。
「…そうか」
そのうち、一つの結論にたどり着く…わたしにピッタリな解決策に。
「PKプレイヤーを殺せば…、オレンジプレイヤーを狙って殺す者の情報が行き交えば…そうだ…わたしが殺す者になれば…オレンジプレイヤー達に対して死の恐怖が生まれれば、タクトのように死ぬ者も少なくなり…悲しむ者もいなくなる」
そう独り言を呟き、わたしはタクトの最後の遺品であるヘルムを目の前に置くとタクトのヘルムは私を心配そうな顔をした。
「そんな心配そうな顔をするな。わたしは強い…このゲームが終わるまで…オレンジプレイヤー共の好きにはさせないさ…だから…現実のお前に会いに行くのは当分先になりそうだ…待っていてくれるな?」
わたしはそうヘルムに言うと、ヘルムは返事をするかのように、耐久値を失って砕け散った。
「………」
わたしは今一度あふれそうになる涙を飲み込んで、改めて深い悲しみをレッドやオレンジプレイヤー達に対する深い憎しみで染め上げた…どんなに蔑まれても構わない。
作品名:SAO二次元創作【魔女と呼ばれた処刑者】1-1 作家名:黒兎