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君振リ見テ我ナニスル

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 一方が掘るのに疲れたと言うのなら、その分一方が掘り進めればいい。

 交わる事のない道を繋げる事は出来る。
 それが自分達の歩んでいく、二人で決めた道なのだ。


「そうだ、滝夜叉丸」
「はい?」
「私はお前を認めているぞ? 力量も性格も含め、お前の事を認めている」
 駄目だ、と思う前に滝夜叉丸は涙を流していた。一体今晩だけでどれ程の量の涙を流しただろうか。
「わ、たしが、良い忍者になれるかは、先輩にかかってますから、ね」
「そうなのか? それは責任重大だな」
 豪快な笑い声が耳元で聞こえる。とても心地の良い、二年前と変わらない温もり。そして、年々大きくなっていく度量。
 どうやら小平太は自分の事を知りたいとか、そんな次元で見てはいないらしい。兎に角此処に存在すればいい、そんな次元らしい。さすがと言わざるおえない。
 考えてみれば何を遠慮する事があったのか。こんなにも器の大きい人間相手に。
 これから自分は小平太が好む『平滝夜叉丸』を演じるのではなく、期待に応える為に精進すればいいのだ。
 あの二年前から自分の目指す場所は何一つ変わらない。
 
 ああ、私は何も違えていなかったのだ。滝夜叉丸はそう安堵し、愛しい人の頬に唇を寄せた。

 部屋に帰ったらまずは喜八郎に謝ろう。八つ当たりをしてすまなかったと。
 もしも、喜八郎が自分のように岐路に迷う事があれば、いつでも頼りにすればいい、と口に出して言ってやろう。
 そう、人間は言葉にしなければ通じ合えないのだから。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「ね? 大丈夫だったでしょ?」
「……随分と嬉しそうですね」
「あれ? 綾部君は嬉しくないの?」
「ちっとも。こんな寒い中延々と待たされて結局は元鞘ですよ。私達の出番は本当に無かったし」
 喜八郎は頬を膨らませ、塹壕とは全く違う方向を睨んでいる。珍しい子供らしい表情にタカ丸は小さく声を上げて笑う。決して二人の邪魔をせぬように。
「いいじゃない。僕の時はおめでとうって言ってくれたんだから、滝夜叉丸君にも言ってあげなよ」
「絶対に嫌です。明日から滝夜叉丸の歩く所歩く所全部に蛸壺掘ってやる」
「それは手荒い祝福の仕方だね。でも、いつか君にもそういう人が現れたらきっと滝夜叉丸君は全力で応援して、実ったら全力で祝福してくれると思うよ?」
 タカ丸の言葉に喜八郎は無表情に戻り、その顔をジッと見上げる。
「私にも?」
「そう、君にも。きっと素敵な人が現れるよ」
「……私はそういう事には興味がありませんから」
「うん。今はそれで良いと思うよ。いつかその日がきたら心が自然と反応すると思うから」
「そういうもの、ですかね」
「そういうもの、だよ」
 凹凸の二つの影は共に静かにその場を後にした。
 残ったのは曇り一つ無い空に浮かぶ月と、それに照らされ祝福を受ける二つの影のみ。



 完
作品名:君振リ見テ我ナニスル 作家名:まろにー