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君振リ見テ我ナニスル

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 今の体育委員会を支えているのは小平太だけではない。予算会議となれば滝夜叉丸の頭脳が必然的に必要となる。将来有望な下級生達はまだ予算案を組むには心許無い。それは滝夜叉丸も承知だ。だから、いつか別れが来ても委員会は全うしようと心に決めていた。その覚悟がほんの少し早まっただけの話だ、と自分に言い聞かせる。
「ああ、お前はやっぱり強いじゃないか」
 先刻の自身の言葉の返しだということは直ぐに分かった。だからこそ、滝夜叉丸は惑った。
 やはりここは「当たり前じゃないですか」といつもの傲慢な態度で答えるべきなのだろうか。それとも、と悩んでいた滝夜叉丸よりも先に小平太が言う。
「……そんなお前に私は甘え過ぎていたんだろうな」
 咄嗟に見向く。小平太はとても情けない表情をしていた。情けなく眉を下げ、頭を掻きながら滝夜叉丸の様子を伺っていた。
 こんな小平太を見るのは初めてだ。
 滝夜叉丸は今夜何度目かになる感想を抱いた。
 見っとも無く呆けたままの滝夜叉丸の視線をどう汲み取ったのか、小平太は言葉を続ける。
「長次に聞いたよ。お前が私の事でどれだけ悩んでいたか。あいつは私が居る事に気付いて一芝居打ったらしい」
「ひと、芝居?」
「ああ。滝夜叉丸を好きだ、とか、私には渡さないとか、接吻を迫った事も全て芝居だったらしい」
 まさか、と滝夜叉丸は呟いた。
「あの中在家先輩がそんな事するなんて……」
「私も驚いた。普段から見かけと違って突拍子も無い事をする時はあったが、まさかあんな事を、なあ」
 先程の光景を思い出したのか、小平太は苦悶の表情を浮かべている。そして、自分が叩いた滝夜叉丸の頬にそっと手を添える。一瞬身体を反応させた姿に、寂しげにし、か細い声で「すまなかった」と後悔の念に押し潰されたような表情をする。
「あいつは私を焚き付ける為にあんな事をしたようだ。お前を泣かせた事が許せなかったと言うのは本音らしい。確かに長次は滝夜叉丸の事を気に入っていたからな。……だけど私は正直に悔しかったんだ。滝夜叉丸が長次にしか話さなかった事が」
 視線が交わる。真摯な瞳に滝夜叉丸は射抜かれた。
「話す相手が違うんじゃないのか? あんなにも大切な事を言うのは長次じゃなく、まず私にすべきだろう? これは私達の問題の筈だ」
 違うか? と問われると否定の言葉は出てこない。
 確かに最初に言うべきは当事者なのだ。だが、それが出来れば色恋など簡単だ。しようとしても出来ない。そんな葛藤があるのが色恋ではないのか。
「好き、だからこそ言い辛い事もあると思います」
「好きだからこそ言わなければならない事があるんじゃないのか?」
 押し問答に成りかねない問題だった。それこそ個々の価値観だ。
「私はな、滝夜叉丸。お前の頑張る姿が好きだ。笑っている顔が好きだ。だが、それ以上にお前が好きなんだよ」
「!」
「何処がどうとか、いつとかそんな細かいことは私の性に合わないんだ。私は『平滝夜叉丸』が好きなんだ」
 これ程の殺し文句があるだろうか。
 滝夜叉丸は顔に熱が集まるのを感じた。意味不明なひらがなの羅列が口から零れる。フッと小平太が笑みを溢す。
「そうやって戸惑うお前の姿も好きだな。可愛い」
「か、可愛いってなんですか!? わ、わ、わたしは別に!」
「可愛いものは可愛いんだ仕方がないだろう」
 歯を剥き出しにして笑う小平太は既に滝夜叉丸の知っている小平太だった。
 いつの間にか小平太の調子になってしまっている。滝夜叉丸は妙に悔しさを覚え、この際だ、と長次にも話していなかった事を言ってみる。
「だ、大体先輩の告白の仕方が諸悪の根源なんですよ!」
「諸悪?」
「私があんな風にずっと悩んで悩んで、挙句にあんな見っとも無い姿を中在家先輩に見せる事になった原因です! あの時先輩があんな風におっしゃるから!」
「何か変な事言ったか?」
「変な事というか、私の胸にずっと引っかかっていたんです。あの時、先輩は『らしい』って言いました」
「らしい?」
 どうやら当の本人はすっかりと忘れているらしい。それが滝夜叉丸には余計に腹立たしくなってくる。
「そうです! 先輩は同級生に『お前は平の事が好きなんだ』と言われたから、どうやら自分は滝夜叉丸の事が好きらしいと気付いたと、そうおっしゃいました!」
 あの日あの時、小平太の告白に直ぐに応じることが出来なかった理由は正にそこなのだ。
「人に言われて、多分そうらしい、みたいな言い方をされれば誰でも不安に思います! ふとした瞬間にやっぱり好かれてはないのではないか、とか。もしも、先輩が勘違いだったと気付いたらどうしよう、とか。私はずっと、ずっと」
 不安で……、と語尾は消え入りそうな声だった。
 今でもその不安は拭えない。つい先刻再び想いを告げられたと言っても、相手は七松小平太だ。いつ何処でその気持ちの変化が起こるか分からない。そして、それが起きれば小平太ならば何の躊躇もなくそれを滝夜叉丸に伝えるであろう。そんな事自分には耐えうる事など出来ない。
「私はそんな風に思われていたのかー」
 二年前を彷彿とさせる口調に滝夜叉丸は涙を堪える。
 困惑したように頬を掻く小平太は数拍置いて、滝夜叉丸に向き直るとその身体を抱きしめた。
「な! ご、誤魔化そうとしてもそうは、」
「好きだ」
 滝夜叉丸は言葉を詰まらせる。
 耳元で囁かれる甘い告白は同衾をした際にもされた事はない。
「お前の事が好きだ。誰に言われたからでもない。切っ掛けは友人だとしても、今の私は私自身の意志で滝夜叉丸の事が好きだ。ずっと不安にさせていた侘び、と言ったらまた誤解を生みそうだが、私はお前がいつでも私に対して正直になれるまでずっと言い続けるぞ。私は滝夜叉丸の事が好きだ。此処で今私に抱きしめられている滝夜叉丸自身が好きだ」
「先輩、卑怯ですよ……」
「忍者は卑怯だろうが何だろうが目的を果たす事を第一にするものだ。違うか?」
「……ええ。その通りです」
 降参です、と滝夜叉丸は小平太の広い背中に腕を回した。
「例えお前が弱くても、脆くても私の気持ちは同じだ。それはさっき確認済みだ。あんなに取り乱したお前を見ても愛しいとしか感じなかったからな」
 そういえば、と滝夜叉丸は気付いた。
 自分を一番最初に認めてくれたのはこの人ではないか、と。
 恋焦がれ、実った先に続いていたものに目先を奪われ、忘れていた。
 昔も今もこうして自分を好きだと声に出して言ってくれるのはいつもいつもこの人ではなかったか。


 道は別れている。自分達は共に我が道を行く性格だ。端から交わる事などないのだ。
 だが、二本の道が有り、それがもし未来永劫繋がる事がないのであれば掘ればいいのだ。
 道を作り、例えそれが塹壕と言う色気のないものでも、二本の道を繋ぎ合わせれば、そこに二人の道が生まれる。
 その先再び道が違えても、また懲りずに掘ればいい。

 幸い自分達は共に我が道を行く性格だ。
 例えどれだけ遠い道程でも、その先に目的の者が在れば多少の苦労など何のその。
 一体どれだけの山道を登り、駆け下り、塹壕を掘ってきたか。
 自分達は委員会の花形、体育委員会で日々鍛えられているのだ。
作品名:君振リ見テ我ナニスル 作家名:まろにー