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おとしごろ

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最近、沢口の元気がない。
いつもけらけら笑っている沢口が、ため息ばかりついている。 

夏の暑い日だった。どこかの天気予報によると、最高気温を更新したらしい。
少しも茜色に染まろうとしない西の空が、今日も入道雲を浮かべている。練習を終え、アイスでも買って帰ろうと一息ついたときだった。
「・・・・原田」
沢口が、か細い声で巧を呼び止めた。いつもとは違う雰囲気に、豪も東谷も振り返る。
「その、原田に聞きたいことが、あるんじゃけど・・・・」
「・・・・?」
真っ赤な顔をした沢口からは、告白の言葉でも出てきそうだった。



「サワお前、やっぱり最近変じゃと思っとった」
覗き込む豪に、沢口はうつむく。耳まで真っ赤だ。
「もしかして、悩みの種は巧じゃったんか」
今度は東谷が沢口を覗き込む。
「違う。俺は、ただ・・・・」
そこでちらりと巧を見て、また足元を見る。うつむいた顔は、野球帽の日よけに隠れてほとんど見えない。
「・・・・何だ」
巧が促すと、おずおずと口を開いた。
「俺はただ、原田なら知ってるだろうと思って・・・・」
そう言って、また巧を見る。ちらちらとこちらを見る沢口の顔は、先ほどよりも血の気が増している。
「・・・・何を」
太陽の熱が野球帽を通して伝わってくる。こう暑いところにいつまでも立っているのはごめんだ。
沢口は真っ赤になって黙り込み、先を言おうとしない。巧は豪を振り返ってみる。すると豪は巧の言いたいことが分かったのか、
「お前に聞きたいことがあるんじゃろ」
と、いつもの大らかな顔で言う。聞きたいこと?
沢口は、何かにはばかられるのだろうか、口をぱくぱくと動かしている。
「・・・・言っても・・・・笑わないか」
また巧の様子を伺う。
「早く言わないと帰るぞ」
苛立ちを含んだ声が、沢口の耳に降ってくる。ここで言わなければ巧は帰ると腹をくくったのか、沢口は僅かの沈黙の後、一息に言った。
「・・・・その、き、ききキスのやり方を、教えて欲しいんじゃ・・・・」
「「・・・・」」
「・・・・」
「「・・・・・・・・はい!?」」
巧は呆れた顔で沢口を見下ろし、豪と東谷は同時に声を上げた。
遠くでカラスが鳴いている。太陽がじりじりと燃えている。でもそれに負けないくらい、沢口の顔も真っ赤だった。



作品名:おとしごろ 作家名:原田凛