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【土沖】「愛を覚える」同人誌サンプル

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※サンプルはWEB用に改行を入れています














七月の末に、葬式があった。





それは、隊葬だった。巻き込まれた旅籠の主人を含めて三十六名もの死者を出した「六角事件」の、その最中に亡くなった、一番隊隊士たち三人の葬式だ。
油蝉が喧しく騒ぎたて、晴れすぎるほどに晴れた、ひどく暑い日のことだった。

隊葬を行った屯所の広間は、障子を締め切られひどく蒸していた。近藤らと並んで最前列に座した土方は、指に数珠を掛けたまま手を合わせ、目を伏せて、ここで行った最初の隊葬の日もちょうどこんな風に蒸し暑かったことを不意に思い出す。



今日の日も、近藤は泣いた。

直接の部下を亡くした沖田は、やはり泣かなかった。この月の始めにまだ十六になったばかりとは思えないほど大人びた顔付きで、正座の上でかたく手を握り締め、亡くなった彼らの祭壇を見据えていた。

その背筋はまっすぐだった。

まっすぐ、まるで視線を外せば何かを逃してしまうのだとでも言うように、いつまでもいつまでもそちらを見詰めていた。蝉時雨と低く響く読経の綯い交ぜになった中で、土方は、死んだ彼らのことを考える。


それから、これまでに死なせてしまった幾人もの人間のことを考える。考えようとして、真選組が出来てからここで死んだ人間の数をもう覚えていられなくなったことに気が付いたとき、心底から苦い気持ちになった。

蝉が鳴いている。

泣き声も、伸びた背筋とも無関係に、時間は巡り人は呼吸を繰り返す。



覚えるべきことと覚えているべきことは、数知れずあるのだ。そして、進むために切り捨てなくてはいけないことだって無数にあった。それを望むにせよ、望まないにせよだ。




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