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【土沖】「愛を覚える」同人誌サンプル

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1.



官僚たちに招かれたその宴席のさなか、連れて来た沖田が忽然といなくなった。飲みかけのオレンジジュースもそのままにして、誰も知らない間にそうっと、土方が車の手配をするために席を外した僅かな時間でのことだ。


それは、六角事件の葬儀からちょうど一週間が経った、やはりよく晴れてうだるように暑い日の昼間だった。

真選組の人間は我々ふたりだけで、あとは幕府の重役ばかり、全部で三十人ほどの宴会である。少なくはない人数であり、抜け出すことぐらいは容易かっただろう。それにしたって沖田の堪え性のないことに、土方は眉を顰める。

幸いなことに席にはぐちゃぐちゃに酒が回り、まだ誰も沖田の不在を気に留めていないようだったから、今戻ってきたばかりの座敷を後にして廊下へと出た。土方が沖田の姿を見付けたのは、宴会が行われている離れの裏手側、中庭の小さな池のほとりである。

その中庭へは縁側から自由に降りられるようになっており、沖田はこちらに背を向けて、池の傍にちょんとしゃがみ込んでいた。


「おいコラ、総悟」

離れの中庭は屯所の庭とそう変わらない広さだったので、大声を出さなくともそちらに届いた。沖田はそれに振り返って、まるで犬の子のような素直さで、あ、と声を上げる。

「土方さんだ」
「土方さんだじゃねーよ。何やってんだこの馬鹿」

この皮膚が焦げそうな日差しの中に座り込み、小さい子供が蟻の行列を眺めるようにして、ししおどしが水を注ぐ小さな池の水面を眺めていたようであった。土方はうんざりしながらそのことを口で咎めたが、本当は、こう暑くては強く叱る気も起きずにいる。

「あんたこそ、どこ行ってたんでィ」
「本館。受け付け」
「電話?」
「ああ」

じわじわと蝉の鳴き続ける庭の眩しさに顔をしかめながら「車の手配に」と付け足すと、依然しゃがんだままの沖田は、相槌を加えるように首を傾げる。

そこから立ち上がる気配はまるでなく、代わりに、その澄んだ池に視線を落としてこう言った。

「あのね、魚がいないんでさァ」
「は?魚?」

てんで要領を得ない説明をして、沖田はひとつ頷いた。それから右手を伸ばし、ちょんちょんとこちらに手招きをする。


呼び付けられた立場の我々が揃って宴席を抜け出している今の状況はまずかったが、確かに、座敷へ急いで戻るのも少々億劫ではあった。縁下の踏み石には沖田が履いているのと揃いの簡単な履き物が出してあり、土方は仕方なくそれを突っ掛けて蝉時雨の庭に降りる。



屋根のない中庭は、堪えた。
その日の空はぽっかりとした藍色で、入道雲がもくもくと高くまで積み上がっていた。風がなくくらくらとする。こんなところに長いこと座り込んでいる沖田の忍耐力は、正気の沙汰ではないだろう。

「暑ィ」
「暑がり」
「お前が人外過ぎるんだよ。まさか飲んでねーだろうな?」

後ろに立ち、煙草を吸いたいのを我慢してその茶色い頭のつむじを見下ろしながら聞くと、顔を上げ、こちらに向けて「あー」と大きく口を開けてみせた。


土方は、沖田と性交をするときに、時々その口の中へ指を入れて開かせたりする。けれどこの度のこれは、内科の検診で喉を診られている子供のようだ。

土方がそこを覗き込むと「ほらね」と言うように首を傾げたが、それで何を確かめさせられたのかは全然分からなかった。


「……とにかく飲まなかったんだな」
「土方さんははくじょうものでさァ。言い付けを守ったいい子の俺を、あんな酔っ払いだらけの席に置いていなくなるなんて」
「だからすぐに戻ってきてやったろ。第一が、未成年は酒なんか大っぴらに飲まないのが当たり前だ」
「なんでィ。普段は許すくせに」


抱えた膝に顎を乗せた沖田はわざと拗ねた風に言うが、土方が二十などとうに超えていようと沖田がまだ十六だろうと、この日我々が一滴も酒を飲めないのは同じことだ。

土方はこのあと公用車を運転して官僚をふたりほど城へ送り届けなければならないし、それ以外のお偉方が無事帰宅できるよう、手配した車にきちんとした指示を出さなくてはいけない。そして、屯所に戻れば明日までの書類が束になって机の上に鎮座している。

「あんたはべしゃべしゃに酔っ払うんだから、外で飲まなくて正解でィ」
「うるせーよ。俺が酔う酔わねーより、お前が抜け出してなかなか戻らないことの方が不味ィだろ」

土方は、沖田のことを上から眺めてそう言った。


この日はどうしても沖田の出席が必要だった。近藤でも土方でもなく、沖田でなくてはいけなかった。頬杖をついた沖田は、くるくるとした丸い目で土方を見て笑う。


「なんたって、困難と思われた六角事件を見事制圧してみせた今日の主賓ですからねえ」



苦々しく思い、眉を顰めた。本当に、八月というものは、日差しに生命力があって適わない。


この日の宴は、「六角事件」から江戸の町が護られたことに対する幕府からの褒美の宴だった。その宴会に沖田を連れて来るようにと御用達があったのは、事件で亡くなった隊士たち三人の葬儀があった日のことである。





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