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【土沖】「愛を覚える」同人誌サンプル

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2.



宴会の日から三日が経ったその晩、夕食も風呂も全部済ませた時刻になってからのことだ。自室で受け取った書類にその場で目を通していたら、それまで大人しく畳へ座っていた沖田が、犬の子のように土方の膝元へ身を寄せて来た。


ぺたぺたと四つ這いで近付いて、文机に向かう土方の鳩尾辺りを手のひらでぐいと押し遣る。そんなことをしたって机との狭い間に割り込むのは至難の業だろうと思ったが、しばらく身じろいですんなりと納得のいく位置に収まったようだった。

うつ伏せて、あぐらを掻いた土方の膝に上半身を乗り上げる形だ。沖田の頭がこちらの腹にくっつく。うっとうしい上にひどく重いので、これは嫌がらせなんだろうなとごく自然に思った。

「総悟」
「へい」
「暑ィ」

咎めるとひょいと顔を上げ、その格好のままこちらの目をじいっと見上げた。それからすぐにぱちぱちと、あどけない様子でまばたきを三度。
そうやって子供のような顔付きをして、その次にことんと視線を下に落とす。そうかと思えばくちびるを近付けて、ためらいなく着流しに手を掛けようとしたので、死にたくなった。

「……てっめ、何しやがる!」
「ふわ、」

すぐに頭を引き剥がすと机にぶつけてぎゃんと鳴く、石頭を知っているので気にせずに、阿呆か!と怒鳴り付ける。
恐らくは、口淫をしようとしたので。

「ごちんって言った!」
「うっせー!お前は、ほんっとに……」

何が楽しくてお前にそんなことをしてもらわなければいけないんだと渋面を作る。右手でその顎を掴むと一度睨み付けられたが、後は驚くほど素直に従って顔を上げ、上目を遣って来た。

そうして口を開かせてみれば、そこから覗く舌の赤いこと、赤いこと。
土方は、沖田に口淫をさせるのが好きではない。それを知っていてこんな真似をしてきたのだ。

これはまだ小さいころ、人が病気や怪我などして寝ているとやってきて、わざわざ腹の上へと馬乗りになりそのままそこで楽しく絵を描き始める、そういう子供だった。そんなに構って欲しいのならせめて構ってやりたくなる方法で寄って来ればいいのに、天邪鬼にも程があるだろう。


「……んなろくでもねーこと、何処で覚えた」


ぬくったい体の所為で本当に暑い。今日は風がなく、先程から風鈴もりんとさえ鳴らないのだ。くたびれて言うと、沖田はむっとくちびるを尖らせて、わざと拗ねたようなふりをしてみせた。


「俺が知ってるろくでもないことは、全部土方さんから覚えたんですぜ」


それから動物が濡れたときのように頭を振って土方の手を払うと、机の下から這い出てくる。畳の上に胡坐をかいて座り直し、それを視線で追って振り向いた土方に、くるくると丸い目を向けてこんなことを言った。


「ろくでもないこともくだらないことも嫌がらせの方法も、全部が全部土方さんの所為で覚えたんでさァ」
「阿呆か。お前の生まれもっての嗜虐思考を人の所為にすんな!」
「遣り方の話でィ。俺の持ってるいい手段はみんな近藤さんたちから。悪い手段は、残らずあんたから」

土方が眉を顰めると、沖田は、生意気そうな子供の顔でぺろりと口の端を舐めた。

「おんなじ悪いものだからなァ……」







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本文へ続く




「愛を覚える」
2010.4.11 土沖オンリー「ヒジオキズム」発行予定
スペース 4F キ-04 「カレンツ」
土方×沖田 R16/A5/60P