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FATE×Dies Irae 1話―6

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 苦し紛れの膝蹴りが、セイバーの腹へと突きささる。
 少女の矮躯は紙くずのように背後へと吹き飛ばされ、その手に握った聖剣ごと神父の巨体から引き剥がされた。
 ダメージは軽微。飛翔半ばで体勢を立て直し、危なげなく着地するセイバー。
 傷口をおさえる神父の貌(かんばせ)には、初めて苦悶の色が滲んでいた。
「これは驚いた。よもやこの聖饗杯にこれほどの亀裂を叩き込むとは。実に見事。ええ、今のは流石にひやりとしましたよ。が、詰めを誤りましたね。あるいは狙いが首であったなら、今ので決着となっていたでしょうに。千載一隅の好機を、あなたはみすみす取り逃がしたわけだ」
 彼固有の能力か、それとも敵マスターの援護によるものか。
 神父の怪我が見る見るうちに塞がっていく。
「ああ、そうそう。先の言葉は訂正します。なるほど、さしづめ風の鞘といったところですか。しかしながらお恥ずかしい。この程度の偽装で宝具の格を見誤るとは。さて――」
 神父は芝居がかった仕草で両腕を広げ、
「では返礼と参りましょう」
 告げる神父の総身から、おびただしい神気が溢れだす。


   親愛なる白鳥よ
   この角笛とこの剣とこの指輪を彼に与えたまえ
   この角笛は危険に際して彼に救いをもたらし
   この剣は恐怖の修羅場で勝利を与えるものなれど
   この指輪はかつておまえを恥辱と苦しみから救い出した
   この私のことをゴットフリートが偲ぶよすがとなればいい


「!?」
 黄金色の紋様が像を結び、その内側から槍の穂先が顔を覗かせる。
 未来予知にすら等しいセイバーの第六感は、かの神槍が強大な宝具であることを一目の内に看破した。
「くっ……!」
 慌てて聖剣を振りかぶり、なけなしの魔力をそそぎこむ。
 魔力供給がほとんど無い今の状態で対城宝具としての〈約束された勝利の剣(エクスカリバー)〉の本領を解き放てば、勝敗に関わらず消滅は免れまい。
 だが他に、この窮地を凌ぐ手立てはどこにもない。
「――創造(Briah)」
 神父の口元に邪な笑みがよぎる。
 聖剣に集う魔力の総量は、未だ対城宝具としての機能を果たすには足りていない。
 完全に出遅れた。
 間に合わない。
「神世界へ翔けよ黄金化する白鳥の騎士(ヴァナヘイム・ゴルデネ・シュバーン・ローエングリーン)!」
 必殺の神槍が今まさに撃ち出されようとした――その瞬間。


 ――ゴウッ!


「「「!?」」」
 いずこともなく轟き渡った砲声に誰もがぎょっと目を剥く中、神父はやにわに身をひるがえし、明後日の方角へと神槍の矛先を向けた。
 放たれた黄金色の閃光が飛来する砲弾を呑み込み、夜空の星と消える。


「あーあ、バレちまったか」


 屋敷を囲う土壁の上。新たに割って入った声の主は、大型の拳銃をくるくると掌中で弄びながら、修羅場にそぐわぬ気易い物腰で庭先へと降り立った。
「あなたは……」
「司狼!」
「よう、久しぶりだな神父様。士郎のほうは半日ぶりか。まさか、こんなところでまた逢うとはな。ああ、今のはお前ら両方に対してな」
 司狼と呼ばれた少年はふてぶてしく笑い、
「……なるほど。彼女を囮に槍を抜かせ、その間隙をついて私を仕留める。なかなかの上策だ」
「そりゃどうも。まあ、ちょいとタイミングが早過ぎたのが痛恨だがな」
「ええ、おかげで命拾いをしました。それはそれとして……ふむ、それはマレウスの聖遺物ですか。どういう経緯で手に入れるにいたったのかいささか気になるところではありますが、今はまあ、いいでしょう。〈血の伯爵夫人(エリザベート・バートリー)〉――日記に記された数々の拷問器具を武器として形成、使役する、非常に多彩で汎用性に富んだ聖遺物だ。しかし反面、純粋な威力、霊格はお世辞にも高いとは言えない代物でもある。仮にあなたの位階が創造に達していたとしても、まっこうからのぶつかりあいではとても聖饗杯を砕くには足りない」
「お説ごもっとも。けどよ、決め手がねえのはお互いさまだろうが。いくらあんたでも一夜に三度もありゃ抜けねえだろ? それでなくても二対一だ。できるってんならもう一度使ってみろよ。俺かそっちのお嬢ちゃんか。どっちかが、今度は必ずてめえを仕留めるぜ」
「――いいえ、三対一よ」
「!? 遠坂!」
「よう、早かったな姉ちゃん」
 今度の闖入者は一組の男女。先の司狼同様に、土壁の上から射るような視線を神父に向ける。
 気配で分かる。男のほうはサーバントだ。
 めまぐるしく変転する情勢を前に、セイバーは臨戦の構えを維持したまま慎重になりゆきを注視する。
「……なるほど、確かにここらが潮時(しお)のようだ」
 神父は溜息まじりに認めると、あっさりと戦意をひっこめた。
「もともと彼が『こちら側』の人間となった時点で、目撃者を始末するという当初の目的は達成されたも同然です。あわよくば今ここで――とも思いましたが、致し方ありません。情報も十分に集まったことですし、今宵はここまでといたしましょう」
「はっ! 何勝手にしきってんだよバーカ! てめえにゃ山ほど聞きたいことがあるんだ。はいそうですかって、このまま逃がすとでも思ってんのかよ?」
 挑発的な司狼の物言いに、やれやれとばかりに苦笑を漏らし、神父。
「相変わらずですね遊佐司狼。お互いに決め手がない。あなたが言ったことでしょう? 仰る通り、これ以上の戦闘は誰にとっても不毛だ。ですが、それでも追ってくるというのであればどうぞご自由に。もっとも、今この街で隠形に徹した私を見つけられるのは、それこそアサシンくらいなものでしょうがね。では――」
 薄く微笑む神父の長躯が、霊体となって夜闇に溶ける。
 鳴子の音はすぐに途絶えた。すでに神父はこの場を離脱したのだろう。
 少なくとも、今ここに敵意ある者は存在しない。
「――で、だ」
 沈黙を破り、司狼はにやりと頬を吊り上げる。
「そんなこんなでお邪魔虫もいなくなったみたいだし、ここは一つ、改めて自己紹介でもしながら、お互い腹を割って情報交換といきたいわけだけど、どうよ」
 彼の提案に、異論を唱える者は誰もいなかった。
 
 

 

作品名:FATE×Dies Irae 1話―6 作家名:真砂