we're wasting time!
結局、丁度高台に逃げてたお陰で上から見ると街の構造も、路地の方も大変良く見えまして。
ここしばらくで何かが溜まっていたのかは判らないが、ハボックは嫌と言うほど、東方軍の誇る最大火力兼、歩く遠距離砲の威力を思い知らされる事になったということを補足しておく。
何か、応戦している相手が勝手にボンボン武器だ車だを爆発させていき、次々強制終了となっていく様だけを見る頃になった同僚や後輩に、ハボックが後に語った所によると、「見えてようと見えてなかろうと代わらない」「ライフルいらない」「直線でなくてもいいだなんて詐欺だ」等、微妙に判るような、判らないような解説を語ったという。
お陰で制圧もわりと苦労なく進んだ、という点においてありがたかったので別に何処からも文句は出なかったけれど。
さて、それから数日がたち。
数ヶ月を費やす事になった大規模な一斉検挙も成功を収め、むしろ後処理に辟易するようになってきたころ。
中央から紫の台風がやってきた。
「ぃよぉ、ダブルで検挙、お疲れさん!」
バン、と勢いよく開いた扉の向こうには。
・・・何か変なチンピラくさい人がいた。
門の警護の面々や受付には顔も名前も売れているが、司令室の中には新人や他からの出向組もいるわけで。
・・・で。
できたら、その紫シャツやめましょうよ、ホントに。
「ご無沙汰っす、ヒューズ中佐」
いまいちやる気を感じられないと好評(?)の敬礼を返せば、階級が聞こえたのだろう、ぽかんと口を開けていた面々が慌てて立ち上がって敬礼を返していく。
まぁ、一応、お偉いさんだもんな、中佐って。うちの一番上って、中将と大佐だし。
私服で来られたら余計もうほんとわからないけど。
てか、何で私服。
「非番なんですか?わざわざ東部まで?」
「そーよー、明日の証人の輸送引き継ぎにきたわけ」
ま、仕上げはこっちでしてやっから任せといて、と大口開けて豪快に笑う様は、やはり中央で切れ者と噂の中佐らし・・・くない。本当に。
まぁうちの上も人の事言えない時が多々ありますのでこれ以上は言わないけど。
「あいついるか?」
「奥で缶詰にされてます」
「また逃げてたのか?」
「今回製薬会社のアレなんで何か資料が面倒臭いらしくって嫌がってて」
「あー・・・」
「昨日一昨日と連日逃亡したら中尉が『次に逃げ出したら仕事をしなくていい所へご案内致しますから』って」
「・・・はー・・・」
「で、中尉はこないだお強請りしてた最新のライフル喜々として整備してます」
「脱走すること前提な訳だな・・・」
というか上司を的にする事前提だと思います。
「まぁ仕方ねぇな。流石にこの格好であいつの部屋まで行くわけにはいかねぇし」
そりゃもうほんとそれはマズイです。
もし誰か来客中とかだったら、次は通したオレたちに風穴が空く事になるんでそれだけはほんっっと勘弁して下さい。
「しゃぁねぇな。んじゃ先行ってるからつっといて」
「飲みに行く約束でもしてたんですか?」
「誘いには来たんだがなぁ。こりゃちょっと無理そうだし」
「顔見せてかないんですか?」
珍しい。
大抵の時には多少忙しいくらいだと平気で突撃をしているというのに。すると、中佐は微妙に遠い目をして見せた。
「いやぁ何か嫌な予感がするから、逃げるわ、オレ」
帰るじゃなくって逃げるって何。
まぁそう言うなら、と。喫煙所に行くついでに見送りがてらと玄関までやってくると、来た時と同じようにじゃーなー!とやたら清々しい笑顔で颯爽とヒューズ中佐は帰っていった、
筈だった。
チュン! と。
中佐の足下の小石が跳ね上がった。
「ちょ…!?」
何で!?と慌てて飛び出した先では。
「ちょ、リザちゃん!?それ酷くね!?何でオレまで!」
ぐるん、と司令部の上の方をむいて全力でがなる紫シャツ。じゃなかった、国軍中佐。
・・・ああ・・・。
何となく、読めた気がして、同じように習って上を仰ぐ。
階上の、上司の部屋から覗く黒いのと金色のと、ついでに何か不吉な鈍色の…。
・・・ほんっっと自分が楽する為なら手段えらばねぇなぁ大佐・・・。
そして、恐らく上官命令、の傘の下、喜々として引き金を引いたに違いない麗しの東方司令部最強の華も。
黒髪の上司は目が合うと、非常ににこやかな笑みを浮かべて、ちょいちょいと指先だけ動かした。
「・・・連れてこいって、指令出ちゃったんですけど、遂行して良いですかね、sir」
何だかぐったりした心地のままに問い掛ければ、ヒューズ中佐は一つ大きく息を付くと、首を傾げた。
「・・・なんか育て方間違ったかなぁ俺・・・」
そこまでは知りません。
そうしてすべて一発の銃声で終わりを告げる。
fin
作品名:we're wasting time! 作家名:みとなんこ@紺