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IS  バニシングトルーパー α 002

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 その動きが本物のカブトムシとそっくりで、凄い不気味だった。

 「……やれやれ」
 こんな状況だからこそか、今のクリスの心境は不思議と落ち着いてきた。
 軍人さんの血で赤く染めた上着を脱ぎ捨て、さらに力を振り絞って、セシリアを虫ロボットから遠ざけようとする。
 虫ロボットたちの狙いはセシリアかISか、それとも両方か。どっちにしても、今の自分が考えることではない。
 今まで結構いろんな経験をしてきて、死の危機と直面するのはこれで二度目だ。
 一度目は列車の事故に巻き込まれたときだった。あの時は最後まで諦めていなかった気がする。
 今回もそのつもりだ。

 虫ロボットたちは目と思われる部位が無機質な光を放ち、共鳴をしているように点滅しながら、一斉に近寄ってくる。
 先頭に立つ一機が、その鞭のような尻尾を振り上げた。

 「……チッ!」
 この距離ではもう逃げられない。セシリアの体を庇うように抱いて、クリスは背を虫ロボットに向けた。
 PTを巻き上げて投げ捨てるほどの力のある尻尾、生身のまま叩かれたらどうなるか、想像するまでもない。
 目をつぶり、歯を食いしばる。
 けれど、直後に響いたのは尻尾が風を切る音ではなく、鈍い衝撃音と爆発音だった。
 地面が揺れて、熱い爆風が背中を焼く。
 上空から一筋のビームが降り注ぎ、先頭に立つ一機の虫ロボットを貫いて、爆散させたのだ。
 そしてその虫ロボットが爆発した直前に、巨大な箱のようなものが上空からクリスと虫ロボットの間に着陸して、盾となって爆発の炎から彼を守った。
 ビームが更に降ってくる。
 虫ロボットたちをなぎ払うように照射し、駆逐する。

 「な、何だ!?」
 ビームがきた方向へ、クリスは顔を向ける。
 そこにあるのは、壊れた外壁からゆっくり降りてくる一機の人型機動兵器だった。
 V字バイザー状の赤いセンサーに、長くてシャープなブレードアンテナ。武骨なフォルムをした全身の青い装甲が、とても頼もしく見えた。
 カラーリングが違うが、あれはアフリカの戦場にも現れていた機体「ゲシュペンストMK-II」だった。
 虫ロボットたちはすぐ新たに登場したゲシュペンストMK-IIを標的と認識した。クリスとセシリアから離れて、ゲシュペンストMK-IIへ急速接近する。
 それに対してゲシュペンストMK-IIは右手に握ったビームライフルで牽制しながら、左手にある三本のプラズマステークをセットした。
 そして正面から突っ込んでくる虫ロボットの頭部目掛けて、思いっきり叩き込む。
 電光が迸り、金属板の砕ける音が響き渡る。虫ロボットは頭部が丸ごと叩き潰されて、司令塔を失った胴体が地面に落ちて、動けなくなった。

 「なんてパワー……増援か?」
 ゲシュペンストMK-IIを見上げながら、クリスは驚嘆する。
 空中機動性、ビーム兵器、そしてあのパワー。
 あれは明らかにPTではなくIS。しかもかなり高性能の機種。
 機動性ではセシリアのISに一歩及ばないものの、接近戦能力と防御力ではそれ以上だった。
 だがまだ楽観できる状況ではない。
 この増援も所詮は一機、再開した戦闘はまたすぐ消耗戦になる。
 せめて、もう一機のISがあれば。

 そう思った瞬間に、空から落ちって来た箱――いや、コンテナからエアロックが解除される音がした。
 低い音を立てながら、コンテナのドアが開放されていく。その奥に鎮座していたものが、ゆっくりと姿を現す。

 「PT……!?」
 中にあるのは、人の形をしたパワードスーツ一機と、それを固定しているハンガーだった。
 やや暗い青色で、ゲシュペンストMK-IIよりスマートなフォルムしているものの、どことなく似ている機体だった。こっちに背を向けて中枢を開放した状態で、そこにいるはずのパイロットが居ない。
 ハンガーのロックが解除され、機体が勝手にコンテナから排出され、クリスの前まで押し出される。

 「オレに乗れというのか……なら!」
 その機体を見た瞬間、クリスは動いた。
 虫ロボットはまだ近くにある。このままセシリアを連れて逃げることができない以上、このPTの力を賭けるしかない。
 装着位置に滑り込むと、展開していた装甲がクリスの体を包み込むように閉じた。機体はまるで自我意識があるように彼の体型に合わせて装甲の形状を調整しながら、スリープ状態から機能を回復していく。

 「こいつは、PTじゃない……うっ!」
 この機体はPTではない。虫ロボットたちを確実に倒せるマシン――ISだ。
 それに気づいた瞬間、大量の情報が激流のようにクリスの脳内に流れ込む――若しくは、脳内に眠っていた知識が活性化したと言ったほうが正確かもしれない。
 海に溺れたような感覚に体を襲われ、息が詰まって呼吸が出来ないとすら錯覚する。

 ――パイロットバイタルサイン安定。エネルギー残量99.8%。機体損傷率0%。シールドバリア展開。フィードバックシステム接続確認。火器管理システムチェック。残弾チェック。
 ――サイコクラッチ接続。T-LINKシステム起動。
 ――ビルトシュバイン、起動完了。

 極めて自然な一体感だった。自分が機械を操縦しているとは思えないほど、機体の指先までは自分の思うままに動く。目を瞑っていても、全方位の情報すべてが直接脳へ投影される。
 操縦訓練を受けたこともない自分が今、この機体を自分の手足のように動かせる。

 「ビルトシュバイン(Wild Schwein)、か」 
 機体制御補助AIに示された機体の名を、クリスは口にしてみた。
 ドイツ語の「イノシシ」。それが自分の力となった機体の名前だ。

 コンテナを越えて、虫ロボットはクリスが起動したビルトシュバインに飛びかかる。
 一歩だけ引いて、クリスは流れるような動きで体を回転し、ビルトシュバインの左腕を振り出す。
 静かに衝突する。
 そして閃光の後、虫ロボットはすでに綺麗な二枚おろしにされて、ただの鉄屑となって地面に落ちた。
 残りの虫ロボットが、ビルトシュバインを包囲するように迫ってくる。
 ゲシュペンストMK-IIが半分ほど引き受けてくれたおかげで、セシリアが一人で戦った時の数はないが、それでも数の差は歴然としている。
 しかし――

 「恐れることはない。お前は誰よりもそれを上手く使えるはずだ」
 突然、聞き覚えのない声が、直接脳内に響いたように聞こえた。
 その通り。今の自分は何も恐れていない。
 ビルトシュバインのM13ショットガンを呼び出して、装弾する。

 「来い、虫けらとも!」
 地面を蹴って、クリスは放たれた矢の如く突撃したのだった。