図書館戦争 堂x郁 記憶喪失(郁視点)
郁は朝起きてからも落ち着きが無かった
前日に同室の柴崎へ昇任発表の件について、不安を伝えていたが
柴崎は「大丈夫よ。当麻事件の考課が最大限に適用されてるんだから、安心して寝なさい」と
宥められ、郁は渋々ベットに横になった
今朝は目覚ましいらずで覚醒したので、いつもよりも早めに特殊部隊事務室へと向かった
「おはようございます!」
扉を開けると、まだ隊員達の姿は少なく、郁は堂上の姿が見えないのでキョロキョロとしていた
「何してる?」
後から不意打ちに声を掛けられ、「きゃっ!」と振り返ると、堂上がバインダーを方手に立っていた
「おはようございます」
「ん、おはよ。今日は早いな」
「はい・・なんだか落ち着かなくて・・・」
えへへと笑って堂上と共に部屋に入る
席に着き、なんだか落ち着かない郁は「コーヒー淹れてきます」と一言堂上に告げる
「そろそろ小牧達も来るだろう。一緒に用意してくれ」
「はい。わかりました」
郁は席を立ち、給湯室へ向かう
隊長室の前を通ると、既に玄田と緒方は出勤しており、何やら書類を見ながら話しこんでいる
--- 昇任結果でも見てるのかな?
郁はチラリとドアの中を伺いながら、それでもなるべく平常心を保とうと努力し、コーヒーの準備を始めた
始業時刻になり、今回昇任試験を受けた隊員が隊長室へと向かう
郁は両手をギュッと握りしめ、次々と呼ばれる隊員達の結果を聞いていた
次が自分達の番になろうとしたとき、堂上がチラリと郁を見たことに気付いた
まるで『大丈夫だ』と言うような視線
郁は緊張が最高潮に高まる
「笠原郁士長、三正へ昇任!」
「ウソーーーーーーーーーーーーー」
思わず上げてしまった声に、堂上が郁の頭をはたき、廻りの隊員からは笑われる
郁は慌てて背筋を伸ばし玄田に向かい敬礼し「拝命します!」と元気よく答えた
*
業務後、堂上に声を掛けられ、夕食を一緒にとることになった
「よかったな。カミツレに届いて」
堂上に言われ、嬉しさと、でもまだ信じられない思いが入り混じった感情を郁は「夢みたい」と返事した
柴崎や堂上達に試験勉強を教えてもらい、なんとか筆記試験を乗り切った
スパルタ学習を思い出しながら、郁は肩を落とし上目遣いで堂上を見上げ、
ここまでの道のりをポツリポツリと堂上に伝えた
暫く話すと、堂上から「昇任祝い何が欲しい?」と聞かれた
郁は「でも教官も昇任したじゃないですか!私だけお祝いなんて・・・」と返事をする
堂上は「今更だから要らん。お前は初めてカミツレに届いたんだからな」と切り替えされると郁は唸り目を泳がした
恋人の堂上は自分に甘い
上官と部下の時とは段違いだ
自分だけがお祝いしてもらうのは気が引けると悩んでいると、堂上が「まぁー」と言いながら郁の顔を自分に向け、目を合わせた
「今すぐに答えろとは言わん。今日は色々とあったからな。
次の公休日までに考えて決めておいて欲しい」
そう言って、郁の頭をポンポンと叩き「さあ、門限に間に合わなくなるぞ」と言って自然と郁の手を取り、店を出た
*
共同ロビーで堂上と別れ、女子寮へと戻る
部屋に入ると柴崎がスキンケアをしていた
「ただいまぁー」「おかえりぃー」といつものやり取りが交わされる
郁はラフな格好に着替え、お風呂に行く準備をする
「堂上教官にお祝い何が欲しいか聞かれた?」
柴崎は鏡の前でコットンを使い、顔をパタパタと叩きながら聞いた
「え?」
「今日食事の時に聞かれたんじゃないの?」
「うん。聞かれたけど・・・」
郁は首を傾げ、何故知ってるの?と柴崎の後姿を見つめた
「あの唐変木のことだから、ストレートにあんたに聞いたんじゃない?」
自分で選んでプレゼントするって人じゃないしぃーと仕上げのクリームを塗っている
「で、あんたは何が欲しいって言ったの?」
「・・・そんな直ぐに欲しいものなんて・・・」
郁は下を向いてポツリと答えると、柴崎はクルッと回り、郁の正面に座った
「んーじゃ”次の公休日までに考えとけ”ってところかしら?」
郁はコクリと頷き、柴崎の顔をみて「あんたはエスパーか?」と答える
「教官と笠原のやり取りは、大体想像つくわよ」
「え?そうなの?」
「そうよぉーだって観察対象だしぃー」
と言って、郁にウィンクをする
「笠原はダダ漏れで聞かなくてもわかるし、堂上教官はちょぉっと突けばボロが出るし」
面白い二人よね?とクスクス笑う
「柴崎は・・・よく教官のこと見てるんだね?」
「んーだぁってぇー私も堂上教官の事好きだもん」と悪戯っぽく笑う
郁はチリッっと走った胸の痛みを忘れるかのように
お風呂セットを持って立ちあがり「行ってくるね」と声を掛け部屋を出た
*
戦闘職種の170cm大女
小柄で可愛くて美人な柴崎とは違い、自分は可愛くないと思っている
戦闘職種としては身長は有利だが、いざ恋愛沙汰になるとコンプレックスでしかない
以前、柴崎は錬成期間中に堂上に告白をし、断られたと話していた
でも・・・
--- もしも、堂上教官が柴崎と付き合ってたら?
--- 堂上教官の隣には、私じゃなくて、柴崎かもしれない・・・
--- 堂上教官と柴崎なら・・理想のカップルだろう
考えてみれば、柴崎と堂上教官は二人でコソコソ話していることがある
多分、自分の事だろうとは思っているが、違ったら?
茨城県展の時みたいに、私の知らないところで二人が情報を共有していることだってある
胸の奥がチリチリと熱い・・・
モヤモヤとした気持ちは嫉妬・・・黒くて深くて奈落の底に落ちて行く感じがする
郁は湯船を出て、ざっと冷たいシャワーを浴びた
--- こんな事考えてたらダメだよね
顔をパンパンと叩き気合を入れ直し、脱衣所に向かった
作品名:図書館戦争 堂x郁 記憶喪失(郁視点) 作家名:jyoshico