図書館戦争 堂x郁 記憶喪失(郁視点)
一晩寝れば気も落ち着くだろうと思っていたが、なかなか浮上できそうもない
業務中は余計なことを考えなくてする為、幾分か楽だが
いざ、堂上と二人っきりの状態になると、醜い思いが溢れだし、抑え込むのに苦労する
なるべく目を合わせないように、ダダ漏れにならないように、郁はいつも以上に気を張っていた
堂上とバディを組み、市街警戒を行っていたとき、堂上が郁に声を掛けた
「笠原、何した」
視線は前から逸らさず、問いかける声に少しビクッとした後
「・・・別に何もしてません」と多少声が掠れ気味に答える
「昇任後から様子がおかしと思ってな。
何か悩みごとでもあるかのか?それとも俺には言えないことなのか?」
堂上が気にかけて心配してくれていることは良く分かる
しかし、こればっかりは堂上には言えない・・・
自分の親友と恋人との仲を勘ぐり、嫉妬してるなんて知られたら、それこそ終わりかもしれない
郁は少し沈黙した後、ポツリと呟いた
「本当に何もありません。心配おかけしました。
大丈夫です。何かあれば、真っ先に堂上教官に相談します」
「・・・そうか」
郁は堂上がそれ以上聞いてこないことにホッと安心していた
*
課業後、いつもなら一番最後まで日誌と格闘している郁だが
今日は市街警戒中に問われたこともあり、なるべく堂上と二人っきりにならないように
素早く書き上げ、帰寮していた
同室の柴崎はまだ帰って来てない
ふぅーと息を吐き、鞄の中から読みかけの本を取りだそうとしたところ
「あれ?机の上に置いてきちゃったのかな?」
ガサゴソ探しても見つからず、どうしようかなぁーと考える
まだこの時間なら夜勤組の隊員は残ってるかな?
戻っても堂上教官と二人っきりにならないよね?
なるべく音を立てずに事務室の入口に近づくと、わずかに扉が開いていた
部屋の中からは、堂上の声と柴崎の声が聞こえる
郁の心拍数が跳ね上がった
気配を消し、そっと耳を傾けると「同室のお前なら何か知っているかと思ったんだが・・・」と堂上の声が聞こえる
その後、「何か分かったら連絡をくれ」と聞こえ、郁は話しが終わったことを察知し、その場を後にした
*
黒い感情は深く深く根をはり、郁の心を犯していく
醜い感情は無理やりにでも抑え込まなければ、身体の外へ漏れ出てきそうだ
--- 私はいつからこんな嫌な子になったんだろう・・・
柴崎に気付かれないように、ベットの中で涙を流しながら眠りについた
*
それから数日後、郁の身体は心身共に病んでいた
頭は痛く、身体が重い
食欲もなく、ただひたすら睡魔が襲ってくる
帰寮後、夕食もとらずベットの中に入った
暫くすると、柴崎が帰ってきたのが分かった
「あら?笠原どうしたの?」
「頭が痛い・・・」
柴崎は白く細い手で郁の額を触り「あんた熱出てるわよ」と告げると、救急箱から体温計を取りだす
測って!と渡された後、冷蔵庫の中からゼリーを取り出し「これ食べた後、薬飲んで寝てなさい」と言う
熱は38度を超えていた
郁は意識が朦朧とする中で夢を見た
堂上と柴崎が手を繋いで前を歩いている
互いに目を合わせながら、楽しそうに頬笑みながら話している
--- 教官のあの笑顔は恋人にする顔
--- 私だけの笑顔なのに・・・どうして??
郁は二人を追いかけようとするが、足が動かない
足元を見ると、黒い霧のようなモノが纏わりついている
--- 離して!堂上教官のところに行かせて!
--- 待って!置いてかないで!教官!教官!!
--- こっちを向いて!堂上教官!!
郁の叫びも空しく、二人は光の先へと歩いて行った
郁はしゃがみ込み、意識を手放した・・・
作品名:図書館戦争 堂x郁 記憶喪失(郁視点) 作家名:jyoshico