世界一初恋 高x律 大切な気持ち
【SIDE 高野】
--- 丸川書店 エメラルド編集部 編集長 高野政宗
俺は以前勤めていた出版会社の連中と揉めて、
親友の横澤の紹介で丸川へ転職した
会社のお荷物部署「少女漫画部門」を一年で立て直し、
売上部数も他の部署より引けをとらない
古い柵(しがらみ)を消し去り、優秀な作家を起用し、
俺のやり方に付いてこれない部下は容赦なく切り捨てた
その結果、優秀な人材だけが俺の元に残り、現在も修羅場を迎えている
つい先日、エメ編に入った新人がいる
名前は小野寺律
以前の会社では文芸編集担当をしていたらしいが、
漫画編集とは畑違いだ
いつも通り、使えないのなら切り捨てるのだが、
この新人は根っからの負けず嫌いらしく、必死で漫画を学ぼうと躍起になっている
--- 最初は文芸をやりたいって言ってたのにな・・・
そんな真剣な姿が昔のあいつとダブる
*
俺には忘れられない元恋人がいる
どんなヤツと付き合ってもそいつを忘れることが出来なかった
『織田リツ』
数カ月だったが、俺に愛する事を教えてくれた唯一無二の存在
だがある日、突然回し蹴りくらい消息不明となった
心の底から「好きだ」と思ったのはあいつだけ
丁度両親の離婚が決まり、俺は母方の実家へ引っ越すことになるのだが、
時間の許す限りあいつを探した
だけどあいつを見つけることは出来なかった・・・
*
『学生の頃とか図書館の本全冊読むとかフツーにしてたんで』
小野寺がさり気無く言った一言が俺の頭を掠める
もしかしたら、小野寺が織田リツじゃないのか?
だが、当の本人は『高野さんお会いするのは初めてです』と答える
確かに俺の知ってる『織田リツ』は素直でいつも顔を真っ赤にさせて
逢えば「好きです」と出し惜しみも無く直球で伝えるヤツで
今の小野寺とは雰囲気も違う
それでも気になって仕方なかった俺は、直接本人に尋ねてみた
「『織田リツ』って人物知ってるか?」
「急に何を言い出すかと思ったら・・・『織田リツ』ですか?
俺の知り合いに一人いましたけど?」
それが何か?と首を傾げて聞いてくる
「今どこにいる?」
あいつに逢えるかもしれない
逸る気持を抑えつつも、返事を待つ
「・・・・10年前に亡くなりました」
え?今こいつなんて言った?
思わず小野寺の胸倉を掴み「何て言った?」と若干震えた声で確認した
「・・・っ!だから、亡くなりました。
”利津”は身体が弱かったんです。」
「お前・・なんで知ってるの?」
「あーー”利津”は従兄弟なんですよ。
俺の母方の親戚にあたりますけど。年齢も同じなので兄弟のように接してて・・」
目の前が真っ白になった
力が抜けた俺の腕を払い、「痛いなぁーもう!」と小野寺は文句を言うが
そんなことはどーでもいい
--- もう逢えない・・
フラフラと壁に寄りかかり、両手で頭を抑える
--- リツ・・なんで俺を置いていったんだ?
作品名:世界一初恋 高x律 大切な気持ち 作家名:jyoshico