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世界一初恋 高x律 大切な気持ち

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【SIDE 高野】

--- 丸川書店 エメラルド編集部 編集長 高野政宗

俺は以前勤めていた出版会社の連中と揉めて、
親友の横澤の紹介で丸川へ転職した

会社のお荷物部署「少女漫画部門」を一年で立て直し、
売上部数も他の部署より引けをとらない

古い柵(しがらみ)を消し去り、優秀な作家を起用し、
俺のやり方に付いてこれない部下は容赦なく切り捨てた

その結果、優秀な人材だけが俺の元に残り、現在も修羅場を迎えている

つい先日、エメ編に入った新人がいる
名前は小野寺律
以前の会社では文芸編集担当をしていたらしいが、
漫画編集とは畑違いだ

いつも通り、使えないのなら切り捨てるのだが、
この新人は根っからの負けず嫌いらしく、必死で漫画を学ぼうと躍起になっている

--- 最初は文芸をやりたいって言ってたのにな・・・

そんな真剣な姿が昔のあいつとダブる



俺には忘れられない元恋人がいる
どんなヤツと付き合ってもそいつを忘れることが出来なかった

『織田リツ』

数カ月だったが、俺に愛する事を教えてくれた唯一無二の存在
だがある日、突然回し蹴りくらい消息不明となった

心の底から「好きだ」と思ったのはあいつだけ
丁度両親の離婚が決まり、俺は母方の実家へ引っ越すことになるのだが、
時間の許す限りあいつを探した

だけどあいつを見つけることは出来なかった・・・



『学生の頃とか図書館の本全冊読むとかフツーにしてたんで』

小野寺がさり気無く言った一言が俺の頭を掠める
もしかしたら、小野寺が織田リツじゃないのか?

だが、当の本人は『高野さんお会いするのは初めてです』と答える

確かに俺の知ってる『織田リツ』は素直でいつも顔を真っ赤にさせて
逢えば「好きです」と出し惜しみも無く直球で伝えるヤツで
今の小野寺とは雰囲気も違う

それでも気になって仕方なかった俺は、直接本人に尋ねてみた

「『織田リツ』って人物知ってるか?」

「急に何を言い出すかと思ったら・・・『織田リツ』ですか?
 俺の知り合いに一人いましたけど?」

それが何か?と首を傾げて聞いてくる

「今どこにいる?」
あいつに逢えるかもしれない
逸る気持を抑えつつも、返事を待つ

「・・・・10年前に亡くなりました」
え?今こいつなんて言った?
思わず小野寺の胸倉を掴み「何て言った?」と若干震えた声で確認した

「・・・っ!だから、亡くなりました。
 ”利津”は身体が弱かったんです。」

「お前・・なんで知ってるの?」

「あーー”利津”は従兄弟なんですよ。
 俺の母方の親戚にあたりますけど。年齢も同じなので兄弟のように接してて・・」

目の前が真っ白になった
力が抜けた俺の腕を払い、「痛いなぁーもう!」と小野寺は文句を言うが
そんなことはどーでもいい

--- もう逢えない・・

フラフラと壁に寄りかかり、両手で頭を抑える

--- リツ・・なんで俺を置いていったんだ?