世界一初恋 高x律 大切な気持ち
【SIDE 高野】
--- どーりで小野寺と『織田リツ』が重なる訳か
居酒屋の前で小野寺と別れた後
自宅に帰った俺は鞄を放り投げ、ドシッとソファーに座り天井を見上げる
親戚同士で兄弟のように育ったのなら、趣味や仕草が似ていることも納得できる
ずっと逢いたいと心の底から思っていた
だけど、あいつはもういない
俺の気持ちを伝えることが出来ない
鈍器で殴られたかのように頭が痛い
心臓を鷲掴みにされている感じだ
「・・・・っ!リツ」
静かなリビングに俺の言葉だけが響き渡る
何度呼んでも、あいつは振り返る事は無い
俺の頬には一筋の涙が零れた
*
『織田リツ』の件を小野寺に話した後から態度が変わった
仕事以外ではなるべく関わらないようにしているのが分かる
昼食だったり、飲み会だったり
俺が来ると知ると、「都合が悪くなりました」とあからさまに避ける
別段仕事には影響しておらず、特に問題視することでもないのだが
--- 気に入らない
俺は昔から他人と一定の距離を保ち、なるべく関心を持たず、深く関わらないようにしている
職場でも、エメ編メンバーは良い奴らばかりだが、
必要以上には関わらないようにしていた
それでも、小野寺がエメ編に来てからというもの
皆があいつを構い倒し、以前よりもメンバー間の交流が深くなったと思う
自然と、笑顔になることが増えた
たった一人の存在だけで、周囲が良い方向に感化されていく
小野寺は起爆剤のような人物だった
*
遡ること数週間前、『織田リツ』のことを知った俺は、翌日小野寺を誘って居酒屋に来ていた
何でもいい。少しでもあいつのことを知りたかったからだ
「何で高野さんは”利津”のこと知ってるんですか?」
小野寺にしてみれば当然の質問だろう
俺は昔の話しをした
「当時、俺が高校三年の頃に付き合ってたんだよ」
へ?と間抜けな顔で俺を見るから、クスッと笑った
そうだよな。男同士で付き合うなんてお前には考えられないだろう?
「リツが俺に告白してきてさ。付き合い始めた。
だけど、突然俺の前から消息不明になった」
淡々と話しを進めた
「探したんだけどさ。その頃両親が離婚してさ。
俺、四国へ引っ越すことになったんだよ。だからそれ以来逢ってない」
「・・・・・」
「お前あいつから聞いたことない?『嵯峨政宗』って名前」
「・・・・・っ!」
その表情は驚きと困惑が混在し、小野寺の顔色は見る見るうちに青白くなった
「聞いたことある?」
「・・・・・はい。一応それっぽい名前は聞いたことあります」
ちゃんと聞いてなければ聞きとれないほどの小さな声で、小野寺は答えた
「そっか」
その日以来、あいつは俺を避けるようになったんだ
作品名:世界一初恋 高x律 大切な気持ち 作家名:jyoshico