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神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件~19-29話

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「な、何だと、この小娘が俺の相手だと!?ふざけるのも大概にしろっ!」
 そう、対戦相手はシャマルだった。
 前日、安田はシャマルを呼び出していた。
そして今回の対決を伝えてこう言ったのだ。
「もし勝てたら私がアメリカに行けるようにしてあげよう」
 それはシャマルにとって途轍もなく嬉しい申し出ではあるが、逆に安田に迷惑を掛ける事になると心配した。
「何、心配はいらんよ君が勝てば万事解決する事だから」
 安田潤司が何か企んでいる事は明らかだった。

「では、対決を始める前に助手を決めないとな、ここにいる北見先生、片岡先生、真東先生、それから最近入った四宮先生、この4人の中から二人ずつ助手を選び給え取り敢えず久保田先生から」
 当然のように久保田は北見と片岡を指名した。
 朝9時、手術が始まるレーベンが出したのはなのはだった。
「メス」
 言葉にする度手の中に現れる医療機器、しかも触った実感すらある。
それは道具に限らず患者自体にもその実感がある。
触った感触は人間その物、体温さえ感じる。
(何と言うテクノロジー、もの凄いリアルさ、これほどのシステムとは……)
 久保田教授はレーベンのシステムに驚きを隠せない。
「プレート、ドリル、ビス」
 矢継ぎ早に指示が飛ぶ、しかし見ている方は退屈だ。
「の、鈍い」
 シャマルが思わずそう漏らしたほどだ。
 まず、胸側の傷を塞ぐまではオーソドックスなやり方だ。
しかも時間が掛かりすぎている。
 そして背中側から術野にアプローチするが、その途中でレーベンから警告音が鳴る。
時間が掛かりすぎた為患者のバイタルが下がった警告音だ。
下手な事をすればすぐに患者が死亡する状態、それをレーベンが警告しているのだ。
「く、これまでか?」
 人工心肺を取り付けようとした所で患者死亡の表示がなされ手術がストップする。
大した腕ではないとシャマルはそう思った。
 それだけ彼女はヴァルハラの手術を多く見てきたのだ。
目が肥えるというのはこういう事を言うのだろう?
久保田教授でも一般の外科医よりは技術力は上だ。それでも大したこと無いと言えるほどヴァルハラはズバ抜けた医者が揃っており、その中で揉まれた彼女だからこそそんな風に思うのだろう。
「さあシャマルさんの番だよ、頑張ろう」
 テル先生の一言が暖かい。
「頑張れよ、この半年間俺たちが指導した事を生かせば必ず勝てるはずだ」
 北見先生からも激励の言葉を貰う、勇気百倍のシャマル。
更にはとんでもない事を言い出す。
「テル先生、四宮先生、この前北見先生に教えて頂いたアレをやりたいんですが」
「えっ?それって……」
 そう、それは北見ほどのベテランでも相当なリスクを伴うやり方、はっきり言ってまだ医者でさえないシャマルにとって成功する確率は相当低い、それでもやるというシャマルの決意は半端な物ではなかった。
 「メス」
 それはある意味賭けだった。
通常なら胸側か背中側どちらかの傷を塞いでから心臓付近へとアプローチする。
 しかし彼女は背中側の傷口を切り広げ一瞬で3本の肋骨を切り落とす。
「ほう、もう俺のメス捌きを体得したか?」
 安田潤司が感嘆の声を上げる。
「これセラミックアンカーを打っておいて下さい。
輸血量増やして、昇圧剤も、それから人工血液も少し入れて下さい」
「何故人工血液まで?」
 そう聞いた四宮先生に、シャマルが答える。
「少しでも手術の成功率を上げたいんです、なのはちゃんの体力を命を減らす訳にはいかないから。
本物のなのはちゃんは確かに助かっているけどここに居るなのはちゃんは、ただのデータかも知れないけど確かに生きて居るんです!だから救いたい!
もうあんな悔しい思いはしたくないんです!」
 そう、人工血液は体内で分解される過程で酸素を放出する。
つまり酸素飽和度を上げる事で体力が持つようにしているのだ。
 でもこのやり方は縫い方のおかしい血管から勢いよく血液が噴き出す結果となる。
「400CC は捨てるつもりで手術に望みます、クリップ、もう一個クリップ」
 かろうじて繋がっている血管の両側をクリップで結紮、縫い方のおかしい所を一瞬で切り取った。
「ハサミの使い方も上手くなった物だ、迷いという物が全くない」
「四宮先生、血管を持ち上げて貰えますか?」
 そして吻合、心臓を止めずに手術している為、
動きが血管に伝わらないよう四宮ががっちりと抑えている。
「すげえ、何て吻合!」
 テル先生が驚きの声を上げる。
 それもその筈、あの12月以来毎日のようにやってきたゴムチューブ縫い、
その成果がいかんなく発揮される。
「早い、しかも精密で美しい」
 四宮先生も感嘆の声を上げる。
とても学生がやっている手術ではなかった。
まるでベテランの心臓外科医が行っているような手術、サポートする側にも安心感が漂う。
 この手術、縫っては結紮縫っては結紮なのだがその結紮も驚くほどに早い。
しかも信じられないほどの緻密さに誰もが見惚れたほどだ。
「はい、吻合終わりました、クリップを取って下さい」
「えっっ?ここまで2時間?」
 信じられない速さだ。
彼女はいつの間にか安田潤司のタイムマジックまで体得しようとしていた。
「ドリル」
「肋骨の接合行きますね」
 肋骨が次々と接合されていく、まだ安田潤司ほどの速さはない物の、
正確さや綺麗さは既にテル先生に匹敵しているほどだった。
 そして脊髄損傷の原因である骨片を取り除く、その骨片さえも人体用の接着剤で欠けた箇所にくっつける。
そして筋肉を縫合、更に皮膚の縫合。
埋没縫合でなるべく傷跡が残らないように綺麗に縫っていく、縫い終わる頃には殆ど傷跡が判らないほどだ。
「フィルム」
 そして胸側へ、こちらもセラミックアンカーを打って肋骨を繋げる。
更に埋没法で縫合しフィルムを貼って終了、掛かった時間は7時間半と少し、
人工心肺を付けたり外したり、心臓を止めなかった分もの凄い時間の短縮が可能だった。
ただ、やはりリスクが大きいだけに何の警告もなくすんなり終わった事が奇跡とも言えた。
「やったぁ」
 四宮とテル、そしてシャマルがハイタッチで成功を喜び合う。

「こ、こんなバカな事が……」
 久保田教授だけがその場に崩れ落ちた。