神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件~30-40話
「あ、あれ?ここどこ?」
なのはは自分のベッドで目を覚ました。
そしてあの事故の事を思い出す、不甲斐なくも気を失ってしまった自分が情けない。
「そうだ、シャマルさんは?」
はやて達も沈痛な面持ちで居間に集まっていた。
「今からヴァルハラへ行こう!」
なのはがそう言った瞬間、全員が頷いた。
その頃シャマルは厳しい手術をしていた。
あの子供の母親は安田と北見のコンビが、もう一人の子供はシャマルとテル、四宮の3人で手術を行っていた。
だが、年末のこの時期、血液センターでも血液が不足する。
輸血に必要な血液が足りない中での厳しい手術が続いている。
「困ったわ、リサイクル輸血も人工血液ももう限界だわ」
「シャマルさん諦めないで、まだ後2時間は血液があるから」
テル先生がそう言うが後2時間輸血すれば血液が底を突く、いくら大きな病院と言っても血液のストックは意外に少ないのだ。
恭也の運転でヴァルハラまで来た物のどうする事も出来ないなのは達、
ただ、血液が足りない事実を知る。
「だったら、献血しようよ」
「無駄だ、一度輸血を受けた人間は献血が出来ないんだ」
恭也の無情な一言が更に重い雰囲気を作る。
そう、この場にいるほぼ全員、献血不能である。
それでも諦めないなのは、シャマルが頑張っているのに、何も出来ないで居るのは嫌だ、しかも二つの命が消えかかっている。
余程の奇跡が起きない限り二人を救う事は出来ないだろう?
下を向いたみんなを見ながら考えた、もう救えないのか?
本当に諦めて良いのか?何か奇跡を起こす事は出来ないのか?
その時、入院患者の持っていたラジオが目に飛び込んでくる。
「そうだ、海鳴FMだ!」
なのはの提案だった、急遽、恭也の運転で海鳴FMのスタジオに向かう。
海鳴FMはFMラジオとケーブルTVの同時放送だ。
海鳴市全域と竜宮市の一部に配信されている。
突然スタジオになのは達が乱入してきた。
丁度ニュース番組の真っ最中スタジオが騒然とする。
マイクを奪ったなのはが訴える、今、安田記念病院で厳しい手術が行われている。
しかし血が足らず、2つの命が失われようとしていると、この番組を見ている人たちで献血の出来る人はすぐに安田記念病院まで来て欲しいと、必至になって呼びかけた。
どれほどの効果があったか分からない、呼びかけが終わると、スタジオの皆さんに土下座までして謝った。
それは奇跡だった。
番組を見ていた多くの人が献血に集まってくれた。
手術に必要にして余りある血液が確保出来た。
結局、海鳴FMからも警察からもお咎めはなかった。
それどこかそれは奇跡として大きなスクープになった。
ヴァルハラでなんとか二人の命を救う事が出来たのだ。
翌日から海鳴の町のヒーローだった。
でもなのはは浮かない顔だった。
「もしあそこで私が魔法を使えていたなら、あの車にバインドを掛ける事が出来ていたなら、あの子を死なせずに済んだかも知れない」
なのはにとって二人救えた事よりも、救えなかった命の方が棘になって心に刺さった。
「私ハ無力ダ……」
作品名:神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件~30-40話 作家名:酔仙