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御狐様生活-壱

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橙色の電灯が灯る部屋で、俺は椅子に腰かけて、備え付けのテレビを見ていた。
『激しい雨は、明日の早朝までには止むでしょう。明日は久しぶりの快晴になりそうです』
「そうか、明日は晴れ……」
 満足そうに頷いて俺は、リモコンを操作してテレビの電源を切る。
 閉めたカーテンと窓の外から、横殴りに降る雨音が響く。これが朝のうちに止むなんて到底思えないが、明日は予定があるので予報を信じるしかなさそうだ。
「ネットにも、良さそうなところはなかったしな……。不動産屋を探してみる、か」
 いつまでもこんな所に留まっているわけにはいかない。財布にはまだ余裕はあるが、早いに越したことはない。
 マウスを操り、ノートパソコンをシャットダウンさせる。もし晴れたら、荷物を持って歩くつもりだから、早めに就寝をしなければ。
「………決まれば、いいな」
 これからの事を思うと、どうしてもため息が漏れてしまう。吐けば吐くだけ、気分が憂鬱になると理解しているのだが。
 俺は椅子を引いて立ちあがった。そして部屋の入口にあるスイッチを押す。乾いた音と同時に、部屋の灯りが消えた。

◇◆◇◆

 和狐凌壽。読みづらいと定評がある俺の氏名である。
 そして名前の方は、何の縁あってか、約千年前の時代――俺の前世の時の名前と同じなのだ。幼い頃に自覚した過去の記憶だが、思い出した時は自分の所業と同時に親の名づけに驚いた。勿論、衝撃は前者の方が多かった。
 前世と同じく、俺には姉がいる。今世では、異父姉弟だ。姉の方の父親――義父は、俺が産まれる前に他界している。
 一般的に見て相当裕福な家庭に産まれた俺だが、色々訳があって現在は家出中だ。高校も最高学年にあがったが中退してきた。……学校側はさぞ驚いたことだろう。
 家出をしたはいいものの、行先が決まってなかったため、昨日はホテルで部屋とノートパソコンを借りて、一泊しつつ家出先を考えていた。結果、見つからなかったので、本日は近くの不動産屋を覗きに行くことにした。
 現在、掲示板の前である。
「……あまり、安くないな。バイトをするにしても、キツイか」
 バイトの賃金は、大学への資金として使いたい。高校は中退してしまったため入学は本来よりも厳しくなるが、将来まで考えると浪人してでも入った方がいいだろう、多分。勉強は嫌いじゃないし、うん。
 一日中バイトが無理なため、家賃は極力抑えたい。だが反して掲示板の物件は微妙に高い。
 ……いい加減、中に入ろうか。粘っても仕方ない。
「シャワー付きで安いところを求める時点で駄目なのか、いやしかし毎日銭湯とか出費が……」
「おい、そこの往生際の悪ぃ坊主」
「部屋は狭くても問題ない。布団が敷けて、小さいテーブル置ければ、文句はないんだ……」
「おい、聞け、凌壽」
「え、俺?」
 先程から、ひとり言の最中、後ろに人がいるなとは思っていたが、話しかけられているとは思わなかった。だいたいこの辺りに来たのは初めてだから、話しかけられるとも思わなかった。
 振り返ると、逆光で眩しい。一瞬目を細める。そして眩しい原因が、逆光だけではないことにも気づく。
「禿げ頭……?」
「誰がハゲだ。相変わらず失礼な奴だな」
 毛髪一本として生やさない、所謂スキンヘッドと呼ばれるような髪型。そして目には真っ黒のサングラス。俺より、少し背の高い中年くらいの男。……誰だろう。
「……おい、まさか分からないのか?」
 呆れたようにため息を吐かれた。失礼なのはどっちだ。
 男はそのまま、片手でサングラスを外した。素顔を目にした瞬間、引っ掛かりを感じる。どこかで、見た気がする顔だ。――おそらく、前世で。
「…………まさか、丞按、とか?」
「遅い。人間になった途端に、頭が鈍ったか」
「うわ、どうでもいい再会……」
 久しい人と会った時、人は喜びや感動などから、体が高揚するものだと思っていた。だがそれは、ケースバイケース……時と場合によるのだろう。一つ学習した。
「うるさい。お前にとって、前世の知り合いなどで、感動できる再会なんてないだろ。せいぜいあの、白い天狐くらいだ」
「当たり前だろ。だから会いたいとか思わなかったんだがな、お前とか特に」
 不動産屋の前でうなる姿なんて、特に見られたくなかった。俺自身としては事情あってのことだが、普通に考えたら馬鹿馬鹿しいにもほどがある。高校中退で家出で物件探しは、無謀すぎる。
 こいつは俺をからかうために、もしくは馬鹿にするために話しかけたに違いない。万が一そうしてきたら、勝手についていって転がり込んでやろうか。
「……で、お前、住むところ探してんのか?」
 考えた矢先に指摘してきたものだから、都合が良すぎて少しばかり驚いた。……元僧侶に読心術なんて能力はなかったはずだ。
「ああ。なんだ、お前んちに泊まらせてくれるのか?」
「冗談を言うな。断固拒否する」
「だろうな。……じゃあ何の用だったんだ?」
 何もなしにお前は話しかけないだろう。そう思いながら問いかけた。
 対して丞按は、唸るように眉を寄せると、先ほど外したサングラスをかけた。何か迷っているのか、しばらく無言になった。今、周りに人がいたら、俺はこいつに絡まれているように見えるだろう。
 しばらくすると、観念したと言いたげに、またため息を吐かれた。幸せを逃がし過ぎだと思う。
「……格安物件に、心当たりがある」
「!!? あるのか!?」
 搾り出された言葉は、予想以上に衝撃的だった。
 なぜこいつが。どうして迷っていたんだ。色々言いたいことはあるが、これはチャンスに違いない。
「格安……というか、破格の物件、だな。とある知り合いが、ルームシェアを希望していて……一緒に住んでくれるのなら、家賃はいらないとのことだ」
「……おいしすぎて、逆に不安になってくるな、その条件」
「言いたいことはわかる。俺もあまりおすすめはしない。……だが、シャワーどころか浴槽もあるし、家自体は広いぞ、あそこ」
「住民は?ルームシェア希望なら、複数ってことはなさそうだが」
「………………爺さんの、一人暮らしだ」
 たっぷり間を開けられたが、何なのだろう。こいつが何を言いたいのか、いまいち分からない。
「よすぎる条件だよな……介護みたいな感じなのか…?」
「年の割にはボケてない、しっかりした爺さんだぞ」
「…………」
 ただより高い物はない。よく使われる言葉だ。実際、安すぎるものを買ったり、ただのものを貰ったりするより、少し値が張るものを買った方がいいことも結構ある。
 金銭面で余裕があれば、俺はこの誘いを断っただろう。だが、今の俺は、一円たりとも無駄にできない。これ以上物件探しをしても、いいところは見つからない気もしている。
「……受けるよ。どこだ、そこは」
「…………住所、書いてやる」
 丞按は、ポケットからメモ帳とボールペンを出した。そしてサラサラと迷いなく書いていき、破って俺に渡してくる。見ると、住所の下に簡単な地図も書いてあった。意外に親切だ。
「じゃあな、近いうちに会うだろう」
 踵を返した丞按は、背を向けて去って行った。俺も、メモを見ながら、その家に向かう。
作品名:御狐様生活-壱 作家名:テイル