第7Q 最後に黒子っちとバスケできたしね
「ノリ」
「それ!っス」
ニセはビシッと私を指差した。
私は海苔を片付け、とりあえず聞く態に入る。
ニセもそれを見て、話を戻した。
「そいや、さっき、緑間っちに会ったっスよ」
「え……僕、あの人苦手です」
「あー、そいやそうだったっスね」
「私はどーでもいいわ、男子(ガキ)どもみんな」
「そーだったっスね」
ニセは汗をかいていた。どうした?暑いか?
「まぁでも、実際ヤバイっスよ、あの左手は」
「…………そうですね」
「特にかに座が一位の時には」
「かに座一位で燃えるなんて、ホントおは朝魔くんってアホみたい」
「それ言ったらおしまいっスよ、紺野っち。ってかホント、おは朝魔って……」
「だって、性格表してるでしょ」
「そうっスけど……まぁ、いいっスわ。ところで黒子っち、どうして全中決勝のあと、いきなり消えたんっスか?」
そう言ってニセはホクロくんにボールを放った。
そう、私も気になっていた。
前のバカ神くんとの話を踏まえても、だ。曖昧なのは本当だし。
ホクロくんはボールを受け取り、顔をポリポリと掻いた。
「わかりません」
「「へっ?」」
「確かにあのとき、僕は帝光のバスケが正しいと思えませんでした。そして、バッシュの音、ゴールがリングをくぐる音、バスケの音が嫌いでした」
私は目を背け、ニセはホクロくんを見つめた。
ホクロくんは続ける。
「でも、火神くんにあって、すごいと思いました。本当にバスケが好きで、少しは嫌なときもあったかもしれないけど、とっても、とっても頑張ってます。あの人と違って……」
話し終え、ホクロくんはボールを見つめた。
きっと、彼について思いを馳せているのだろう。
それを目で追うニセは、「でも」と口を開いた。
「でも、もし黒子っちが彼を買っている理由がバスケに対する姿勢なら、いずれ二人は決別するっスよ」
ニセの瞳は優しくも厳しい。
その瞳にはホクロくんしか捉えなかったらしい。
私の視界にはチラリッと、バカ神くんを見つけた。
「彼はいま、ただがむしゃらに僕たちみたいな強敵と戦うことを楽しんでるだけっスけど、彼のポテンシャルは今日戦って分かったっスよ」
ニセはホクロくんだけを見据え、ボールをつきながら、話を続けた。
「彼は、いずれ僕らと同じキセキを見出だし、チームの中で浮いた存在になる。そのときになっても、まだ黒子っちのいうようなスタイルで、気持ちで、いられるっスかね?」
ニセの言い分は終わった。
バカ神くんは歩き出す。
そして、それに気づかないホクロくんは、
「それは、」
と口を開いた瞬間に、
バシンッ
「どこ行ってんだよ、てめえは!」
とバカ神くんに叩かれた。
痛そうだ。
「よう」と軽くバカ神くんは挨拶をし、ニセは「聞いてたんスか?」と聞いた。
バカ神くんは、答えの代わりに、
「聞いてたかじゃねぇよ。なに二人とも拉致ってんだよ!」
「はっ、ちょっとくらいいいじゃないスか!」
「帰れねんだよ!」
と醜い争いを始めた。
とりあえず、乗った。
「ねぇ、バカ神くん、ニセに○○○されたー」
「ちょっ、なに軽く問題発言かましてるんスか、紺野っち!!ってか、そんな引きまくった目で見ないでほしいっス!あと、黒子っちは一緒にいたっスよね!?」
ニセは苦々しい顔でため息をついた。
そこへ、
「っんだよ、使われてんじゃん」
と荒々しい声が飛んできた。隣にあるバスケットコートだ。
ガラの悪そうな連中5人が、吐くように言った。
「おい、テメェら、もう十分やったろ。代われ代われ」
やっていた3人は慌てながら、さっき始めたばかりであることを主張する。
生意気な、と威嚇するガラの悪い方が言い、もう一人の、
「じゃあさ、バスケで勝負して決めよ―ぜ」
という一言で軽い1on1が始まった。3人はなかなかうまく、ガラ悪に勝っていた。
「ありゃ、負けちゃう、かな」
と冷や汗をかき始めたガラ悪。
そして、残り二人のガラ悪が乱入してきた。ブロックと称したどつきも酷いものだ。
「おいっ、3on3だろ?!!」
と元々いたうちの一人が言う。
それを黙らせたのはガラ悪の蹴りだ。
これは、もはや暴力じゃん……。
バカ神くんも、同じ事を思っているのを表情で察する。
って、あれ?
「ねぇ、ホクロくんは?」
「ん?」
「あれ、いねぇっスね?」
3人で探そうとしたが必要なかった。
「それは卑怯です」
とコートからホクロくんの声が聞こえたからだ。
ボールを回し、ガラ悪の一人の鼻に当てる。
いって、と仰け反るガラ悪。もう一人のガラ悪がホクロくんの胸ぐらをつかんだ。
「いんだねぇ、いまどきそういう奴。いーぜ、だったらお前も、」
鼻をこすられたガラ悪が言いかけで顔を上げた。
その瞬間、彼、いや、彼らの顔が引きつった。なんせ、
「えっと、俺らも混ざっていいっスか?」
「ってか、テメェはまたフラフラと……」
突然現れたバカ神くんとニセを見たからだ。
あ、ちなみに、私は3人の制服持ち。あんな野蛮な奴らとやりたくないし。ってか、3人で十分だし。
で、やはり「3vs5でいいっスよ」というニセの言葉で始まった。
また案の定、
――ホクロくんのパスに戸惑い、ニセのコピーで戦意喪失、バカ神くんのダンクに腰を抜かした。
で、圧勝。
「ね、やっぱり十分でしょ」
とボソッと言う私だった。
とりあえず、ここら辺でニセとはおさらば、だな。清々する。
「そんなこと言わないでほしいっス」
「黙れ」
「黄瀬くんも帰らなくて大丈夫ですか?あの主将とか」
「うち、オレには放任主義なんて、たぶん大丈夫っス」
「いいから帰れ、黄瀬」
「……まぁ、いいっすわ。最後に黒子っちとバスケできたしね」
ニカッと笑みを浮かべ、制服を着るニセ。ってか、あの笑顔で恋に落ちるとか、ホント女子って……。
「だからーーーー」
「うるさいよ、ニセ」
「紺野さん、全部声に出てますよ」
「直情タイプなの!」
「……じゃあ、帰るっスね。IHで戦うまで負けなるなよ、黒子っち、紺野っち、そして火神っちも!」
「は、なんつうた、あいつ?!」
「黄瀬くんは、尊敬した相手には『っち』をつけます」
「嫌だけど!!」
「私もよ」
ニセが去り、二人も制服を着る。
ホクロくんは腕を通しながら、
「火神くん、一つだけ聞かせてください。あの話、聞いてましたか?」
「あぁん?決別とか、なんとか?ってゆーか、それ以前にオレ、別にお前と気ぃ合ってねぇじゃん。だいたい、一人じゃ無理だっつうたのはお前だろ。だったら、心配すんな」
バカ神くんはホクロくんと向かい合い、言った。
「いつも光とともにある。それが、お前のバスケだろ」
と。
ホクロくんは神々しい目をバカ神くんに向け、言った。
「火神くんも、結構言いますね」
と。
で、すぐに先輩たちが現れ、私とホクロくんは説教をくらったとさ。
NG
「ノリっスよ!!……それは糊!ノリ違いっス!……それは海苔!なんでこんなこと言わせてるんスか?!」
「ノリ」
「それ!っス」
「紺野さん、なんで海苔常備なんですか……」
「もってこい、と作者さんに言われたから。そこらへんアドリブでいいっていってたし。そもそも作者さん、台詞うろ覚えで書いてるから、字数微妙になるのよ」
作品名:第7Q 最後に黒子っちとバスケできたしね 作家名:氷雲しょういち