誓い
「艦長、一度だけ聞いてください。もう二度と口にはしませんから」
山中は密やかに眠る海江田の顔を見つめた。
「私はあなたと出会ってから、ずっとあなたのために生きてきた。あなただけのために。
そしてこれからもあなただけのために生きていきます。これからは『あなた』を生かすために。
だけど、これはあなたのためであって、あなたのためではないのです。
私が自分のために、自分で決めたことです。あなたのためじゃない、私のためなんだ。だから……私を許してください」
眠っている海江田からはもちろん返事はない。だが安らかなその寝顔を見ていると、山中は許されたような気がした。
ベッドの傍らにそっとひざまずき、動かない白い手を、山中は恭しく捧げ持った。
「一度だけです、どうか許してください」
そう言うと、厳かにその指に口づけた。
「これはあなたへの誓い、私の魂をあなたに捧げる証です。私は沈黙の艦隊とあなたの夢に残りの人生を捧げます。
私は……永久にあなただけのものです」
山中は出航を待つタービュレントに向かうために病室を後にした。
それきりもう二度と振り向かなかった。
(終)