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神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件~60-70話

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 一方、なのは達
「今日は稽古を中止して大事な話をしなければならない。
お前達に教えた技もそろそろ50を超える。
だから、絶対にこれだけは守って欲しいという話だ」
 士郎はそう切り出した。
「そもそも御式内は守る為の技であって殺すのを目的としては居ない。
なのに何故殺人技があるか分かるか?」
「何でやろ?」
「なんか哲学的な事を聞かれている気がするの」
「良く分からないよ」
「そもそも何故侍は2本差しをしているか分かるか?
2本も必要ないのに何故2本差しているか?」
「そう言われると分からんなぁ」
「同じく」
「それがファッションだからとか?」
「その昔、武士というのは公務員だった。そして仕事場であるお城に上がると控え室に大刀を置く事が義務付けられていたんだ。
でも脇差しは差していても良かったんだ。その脇差しにこそ意味があるんだが」
「どんな?」
「それはな、昔は武士達は身分の上下に関係なく相手が間違ったことをしようとした時それを止める事が許されていたんだ。
相手がどれだけ身分が高かろうが、自分がどれだけ身分が低かろうが関係ない。
説得して言う事を聞かなければ斬って捨てる事も止む無しとされていたんだ。
だから何時でも何処でも抜く事が出来るように脇差しを許されていたんだよ」
「なんか物騒な話やな?」
「でも、そうすると可笑しな話だな?時代劇とは随分違う」
「シグナムさんの言う通り時代劇はそう言う所を描いては居ない。
実際には、咎められれば素直に聞き入れ、自分の間違いを認めるという心構えが出来ていたんだ。
だからそこまでの間違いを起こすような人間は少なかったという訳だ」
「で、そうすると何が言いたいんだ?」
「ヴィータちゃん、もう少し話を理解しようよ」
「つまりだ、お前達に教えた技は脇差しと同じという事だ。
何時でも殺せる力を手にしてしまっている訳だ。
間違って使えば確実に人が死に自分が地獄に堕ちるだろう。
だから自覚して欲しい、殺せる技を使うという事は殺せるのではなく殺すという覚悟を持って使う事を」
「殺す覚悟?」
「そうだ、お前達魔導師には非殺傷設定という物があるが、それが返って覚悟を失わせ力に溺れやがて人を傷付け殺す結果になっている。
なのはを襲った連中がそうだったように、覚悟無き力はやがて狂気に変わって行くのさ」
「なんか難しいな」
「難しく考える必要はない、この技を使うという事は確実に相手を殺すという事を自覚して欲しいだけだ。
自覚していれば確実に殺す時しか使わなくて済むのだから」
「じゃあ何でそんな危険な技を教えたの?」
「必要だからさ、戦いに於いてどうしてもそう言う技は必要になる。
殺す事を自覚しないで戦いに望めば結果は悲惨な物になるだろう。
覚悟していないまま相手を殺してしまったとしよう、どう思う?」
「そんな、やるせなくて自分が死にたい気持ちになるよ」
「なのはの言う通りだ、後悔しかなくなるだろう。
自責の念に攻められて自分で地獄に堕ちていく、そうならない為に覚悟を決める事だ。
殺す覚悟を持って相手を制する事、それが御式内の理念であり御神の剣の教えでもある」
 なのは達にとって、戦って相手に勝つという事は楽しい事だった。
しかし、相手を傷付け場合によっては殺してしまう事もあるかも知れないのだ。
今までそんな自覚無しに戦ってきた事が恥ずかしかった。
もしそうなっていたらと考えると非常に気が重かった。
「それからもう一つ、殺す覚悟と同時に殺される覚悟を持つ事を忘れるな」
「殺される覚悟?」
「そうだ、戦いに於いて常に死と背中合わせである事を忘れるな。戦えば自分もまた傷付き場合によっては命を落とす。
だから、戦いに臨めば何時殺されても可笑しくないのだと覚悟を決めろ。
殺される覚悟無くば自ずと体が硬くなり自分本来の動きが出来ずその結果、自分が傷付きやがて命を落とす。
殺される覚悟を持って死と向き合い、死を受け入れる事で恐怖と狂気を制する事、自分の中でそれが出来ていれば、間違った戦い方はしないだろう」
「殺す覚悟と、殺される覚悟?」
「そう言う事だ、殺す覚悟を持って相手を制し、殺される覚悟を持って自分を制する。
それが出来るようになれば無益な戦い、無様な戦いはしないで済むだろう」
 シグナムは思った。
(自分は過去にどれ位殺してきたのだろう?その覚悟無しに殺してきたのではないだろうか?
結果、自分ではなく、その時の主人が狂気に飲まれ暴走の果てに命を落としたのではないだろうか?)
 やるせない気持ちだけが心に棘を突き刺した。
「これからはもっと修行に励もう」
 そう固く誓うシグナムだった。