吾輩は猫でした
そういえば、こういうときになんて言えばいいのか、この前見た音吉さんの本に書いてあったわね。えーと、確か……。
「あさって来やがれ!」
「セイレーン、そういうときはおとといだニャ」
「いやぁ、元に戻れて良かったね、エレン!」
みんなで歩く帰り道、響はまるで自分のことのように私が人間の姿に戻れたことを喜んでくれた。
「うん、これでまたみんなと一緒に戦えるわ」
きっとこれから先、また痛い目に遭うこともあると思う。恐くて足がすくむこともあるかもしれない。
でも私にはみんながいる。みんながいれば、私は頑張れるわ。
「それにしても、結局なんで猫の姿になっちゃったのかはわからないままかぁ」
「そうねぇ……ちょっと気になるわよね」
「ちょっとどころじゃないわ! 私はすごく気になるわ!」
「うわっ!」
すぐそばで奏が急に大声を上げた。びっくりするじゃない!
「だって猫になった原因がわからないとまたあの肉球を味わえないじゃない! 早く原因を探りましょうそうしましょう! そしてまたあの肉球を! 今度こそ徹底的に味わい尽くすのよ! 嗚呼、肉球! あの肉球をもう一度おおおおおおおおおおおお!」
「……ねえ、エレン」
「なに、響?」
「私、猫の姿になった原因、探さない方がいい気がするわ」
「奇遇ね、私もそう思う」
「はぁー……やれやれ」
アコの溜め息が夕暮れに溶けていった。
私はなるべく奏の方を見ないようにしながら沈んでいく夕日を見つめて、祈った。
――明日の朝、また猫に戻っていませんように。