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吾輩は猫でした

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 私とハミィがネガトーンの気配がする方へ向かっていくと学校にたどり着いた。
「みんなはもう戦ってるのかしら」
 さらにネガトーンの気配を探る……これは、校庭にいるわね!
「セイレーン、急ぐニャ!」
「ええ、わかってるわ!」
 校舎の間を通り抜けて校庭へ走ると……見つけた! ネガトーンにトリオ・ザ・マイナー、それにメロディとリズムとミューズもいる。お互いに校庭の真ん中でにらみ合っていた。
「みんな、大丈夫!?」
 私はその間に滑り込むように割って入った。
「エレン! 来てくれたんだ!」
 メロディが嬉しそうに声を上げた。
「今の私じゃ何も出来ないけど……」
「ううん、来てくれただけでも頼もしいわ」
 リズムがにこりと微笑んでくれた。
「四人そろうと力が湧いてくるわ!」
 ミューズがぎゅっとこぶしを握った。
「みんな……」
 胸に熱い気持ちがこみ上げてくる。涙が出そう。
「フン、それで、今のお前に何が出来るんだ?」
 背後からかん高い声が聞こえてきた。この声――
「ファルセット!」
 私は振り返ってファルセットを強くにらんだ。
「相変わらず生意気な目をしているな……気にくわん。そんな目、二度と出来なくしてやる。やれ、ネガトーン!」
『ネーガトーン!』
 ネガトーンのこぶしが私たちに襲いかかる!
「ふっ!」
 私たちはそれを跳んで避けた――と思ったら二撃目がもうミューズの目の前に来ていた。
「きゃあっ!」
 ミューズは避けきれずに殴られてしまった。吹き飛ばされて校庭の金網にめり込む。
「ミューズ!」
 ちっ、今日のやつはなかなかスピードがあるようね。
「ハッハッハ! どうだ見たか!」
「くっ……!」
 仁王立ちして高笑いするファルセットが憎たらしい。
 その後ろで何やらこちらを見て首をかしげているやつがいた。
「んん? バリトン、なんだか今日はセイレーンがいつもよりちっちゃく見えないか?」
「バスドラ、それはセイレーンが猫になってるからだよ」
「おお、そうか! ……え? なんで猫になってるんだ?」
「さあ……? 私に聞かれても」
 あいつら、相変わらず緊張感がないわね。
「ええい、お前ら何をおしゃべりしてるんだ! お前らもさっさと戦え!」
「だって気になるだろ。ファルセットは気にならないのか?」
「んなこたぁどうでもいい! 何故かは知らんが、せっかくセイレーンが変身できないんだ。今のうちにプリキュアを倒してしまえ! あと、様を付けろ!」
「へいへい。それじゃ――」
 バスドラはだるそうに足を一歩前に踏み出して、消えた。
 え、なんで? どこに消えたの?
「――さっさと終わらせるか」
「メロディ、後ろ!」
 悲鳴にも近いリズムの声が聞こえたときにはもう遅かった。
「あぐっ!」
 バスドラのこぶしがメロディを吹き飛ばした。
 こ、こいつらも早くなってる!?
「メロディ!」
 リズムがメロディに駆け寄ろうとしたその時だった。
「お友達の心配をしている場合かな?」
「なっ――ぐうぅっ!?」
 リズムが気づいたときにはすでにバリトンがリズムの首を締め上げていた。
 こいつ……!
「その手を放しなさい!」
 私は地面を思いっきり蹴ってバリトンの手に飛びかかった。
 変身できなくたって、この爪で!
「あいてて! ええい、うっとうしい!」
「わっ!」
 でもバリトンが軽く手を払っただけで簡単に吹き飛ばされてしまった。
「まだまだぁ!」
 爪がダメなら今度は牙よ!
「あだだだだ! セイレーン、貴様ぁ!」
「ぐっ!」
 今度はさっきよりも強く手を振り払われて、私は地面に叩きつけられた。
「ゲホ、ゲホッ」
 叩きつけられた拍子に脇腹を打ってしまった……い、痛い。頭がくらくらする。目がかすむ。息が苦しい。なんで私がこんな目に遭わなくちゃいけないの? もう嫌だ、こんなに痛い思いをするなんて。
 ――でも。
「う、うぐぐ……っ!」
「まだ立つのか。おとなしく寝ていればいいのに、しつこい子猫ちゃんだ」
 ――でも!
「友達が痛いと、もっと痛いんだ!」
 私はまたバリトンに飛びかかって、握りこぶしでその頬をぶち抜いた。
「ぬおっ!?」
 バリトンは土煙を上げながら吹き飛んでいった。
 よし、これでリズムは助けられ……って、あれ?
 自分の手をじっと見つめてみる。そこには猫の手ではなく人間の手があった。
「私……どうして?」
「奇跡だニャ! ビートの人を思いやる心が奇跡を起こしたんだニャ!」
 そっか……バリトンに飛びかかったときの気持ち、私がキュアビートに初めて変身したときと同じだ。誰かを守りたいと思う心。それが私を再びプリキュアにしてくれたのね。
「なーにが奇跡だ!」
 バスドラが地面を蹴って空高く舞い上がる。
「そんなもん俺様がぶち壊してくれるわ!」
 空から私へ向かって急降下跳び蹴り!
 あの巨体をまともに受け止めるのは難しい――それなら!
「ビートバリア!」
「ぬわっ!?」
 光の壁がバスドラの足をはじき返し、その拍子にバスドラは大きくバランスを崩した。
 今だ!
「ビートソニック!」
 ラブギターロッドをかき鳴らして光の矢を召喚。
「行け!」
 矢たちよ、バスドラを射抜け!
「ぐああああああ!」
 よし、しとめた!
「ええい、ふがいないやつらめ! ネガトーン、やつをやれい!」
『ネーガトーン!』
 ネガトーンのパンチが真っ直ぐこちらへと向かってくる。速い――でも!
「見切った!」
 私がいるはずの場所に私はすでに無く、パンチはむなしく地面に突き刺さった。私はそのこぶしの上にふわりと着地し、腕を伝ってネガトーンの顔めがけて走る!
「てぇいっ!」
 そして渾身の一撃をネガトーンにくらわせた。
『ネーガー!?』
 地面に倒れ伏すネガトーン。
「今ニャ!」
「オッケー、行くわよ!」
 私は再びラブギターロッドを手に持ち、それを両手で胸元に掲げた。
「おいで、ソリー!」
『ソソ!』
 私の呼びかけに応じたソリーがラブギターロッドに装着され、音楽の力がギターの弦を通じて私の体に伝わってくる。
「チェンジ、ソウルロッド!」
 その力を両手にこめてラブギターロッドを変形させる。現れる神々しい羽根飾り。
「駆け巡れ、トーンのリング!」
 ラブギターロッドで円を描くことにより音楽の力を正義に変換し、思いっきり叫ぶ!
「プリキュアハートフルビートロック!」
 トーンのリングがネガトーンめがけて発射され、悪の心を捕まえる。
 ここだ!
「三拍子! 1、2、3」
 そして仕上げの――
「フィナーレ!」
 正義の心が悪に染められた音符を開放し、ネガトーンは眠りについた。
「ニャップニャプー!」
 音符はハミィが回収し、ドリーに預けられる。
『ドリー!』
「もうすぐ幸せのメロディが完成するニャ!」
 ドリーをのぞき込むハミィの笑顔。
 ああ、良かった……一時はどうなることかと思ったけど、こうしてまたプリキュアになって、あの笑顔が見られて、私はそれだけで幸せだわ。
「くそっ、またしても……覚えてろよ!」
 トリオ・ザ・マイナーはいつもどおり捨てゼリフを残して去っていった。
作品名:吾輩は猫でした 作家名:ヘコヘコ