神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件91-101話
だがここに落ち込む人間が一人いた。
アリサだった、苦しい胸の内を誰にも話せずに一人悶々と過ごしていた。
「アリサちゃん、どうしたの?」
アリサの表情を何となく余所余所しい態度をなのはが見逃さなかった。
「ゴメン、本当はこの問題、私が責任を取らなきゃ成らないの、なのにみんなに心配かけてシャマルさんにまであんな悲惨な思いをさせて、本当は家の問題なのに私何にも出来てない……」
「どうしてアリサちゃんちの問題なの?アリサちゃんが何かした訳じゃないじゃない?」
「お父様がいけないの、あの内戦の時アメリカ軍から車検切れした中古戦車を屑鉄並みの値段で仕入れて、(日本円換算)1台3000万で売ってぼろ儲けしたの、300台も売れたって喜んでた。
でも、その責任を取っていない!あの人達に謝らなきゃ行けないのにもう謝る事さえ出来ない!」
なのはに縋り付いて泣くアリサだった。
「違うよ、謝るんじゃなくて救うんだよ、今アリサちゃんが出来る一番の支援は何か考えるんだよ、きっと出来る事があるから、アリサちゃんにしか出来ない事がきっとあるから、アリサちゃんだって一人じゃないんだよ、みんなが力になってくれる。
みんな一緒に頑張ってくれる仲間なんだよ」
なのはの言葉がアリサの冷え切った心を暖かく溶かしていく。
「なのは……あ、ありがとう……」
それからのアリサの行動は早かった。
いろんな事を調べてははやてやすずかと話していた。
「ぁ、フェイト、頼んでおいたあれ出来てる?」
「うん、出来てるよ、キャンプのど真ん中をコンゴ川の伏流水が流れてる」
それは地図だった。
アースラからコンゴ周辺を観測してきたのだ。
何処に地下水が流れているのか?
それを観測して地図に落としてきたのだった。
5日後、はやての予定よりも3週間早く支援の第1陣がやってきた。
バニングスの下請けで水資源開発を行う会社が近くの国で仕事をしていたのだ。
そして、彼らの手にはあの地図があった。
そう、彼らは井戸掘りに来たのだ。
アリサの依頼ですぐに井戸を掘る事になり彼らはやって来た。
そして数日でボーリング作業を完了し帰っていった。
そこにはシャマルが欲しがった安全な水が何時でも蛇口を捻れば出る状態になっていた。
水があるだけで救命率が変わる。薬を飲ませる水が彼らの命を救い始めた。
そして、少しずつ命を落とす人が減り始めた。
更に1週間後ヨーロッパから粉ミルクと食料が届く、食糧と言ってもフランスパンの様な硬いパンに味付けしてスライスし乾燥させた保存食の様な物だがこれで一時凌ぎにはなった。
バニングスグループからの支援だった。
ほんのちょっと彼らは命を繋ぐ事が出来た。
更に2週間、日本から大量のビスケットが届く、腐りやすい環境でもパッケージを開けなければビスケットは腐らない。
しかもただのビスケットじゃない、いろんな栄養素を練り込んで恐ろしくカロリーを上げたビスケットだ。
1箱で大人1日分のカロリーをまかなえるほどだ。
勿論アリサからだった。
次元世界から輸入した材料を日本の製菓メーカーに依頼して作らせた特注品、これが毎月30tトレーラー3台ずつ彼らの元に届く事になった。
それだけじゃなかった。
日本から農業技術指導者がやってきた。
例え帰る国が無くてもその場で土地を耕せばどうにか食べていけるよう彼らに指導しに来てくれた。
取り敢えずサツマイモとジャガイモを栽培出来るよう彼らの指導が少しずつ始まった。
こうした支援が行き届き始めた頃このキャンプで命を落とす人は極端に減っていた。
シャマル達がこの国を去る頃にはもう一月に一人死者が出るか出ないかまで事態が改善していた。
まさにそれは地獄を打ち払った奇跡だった。
そしてまたこの国にも女神の伝説が語り継がれる事となった。
作品名:神手物語(ゴッドハンドストーリー)~名医の条件91-101話 作家名:酔仙