永遠と麦の穂
渡る砂漠はそれほど大きなものではないから、悪天候などの条件を考慮しても三日で抜けられるだろう。刹那はそう判断して水や食糧、野宿のためのテントや寝袋などを購入していった。
「そっちはお前の分だ」
「わかった」
わりと理不尽なことを強いていると思うのだが、グラハムは本当に一つの不平も口にしないで、おとなしく従っている。
何故だと、ずっと思っている疑問が頭の中を過ぎるが、それを本人に問いただす勇気のようなものも、刹那にはなかった。
「……経験がないのなら、砂漠越えはたぶんきついものとなる。今日はゆっくり休め」
「もちろんそうさせてもらうよ。久しぶりの地上なのにハードワークをしたからね」
金目当ての強盗から逃げ回り、刹那に床を転がされ、街中を歩き続けた最後には大きな荷物を背負わせている。確かに何かの罰ゲームのような仕打ちだ。
「すべて必要なことだったろう」
「わかっているよ」
『すまない』の一言も言えない刹那に、しかしグラハムは笑って答えていた。
ホテルで夕食を取った後、グラハムは本当に疲れていたのか、シャワーを浴びてすぐベッドに転がり込んでいた。
畳んだ衣服の一番上に置いてあった例の刀を手に持って、枕の下にしまいこむ。そしてそのままシーツの中へ埋もれようとした身体に、刹那は声をかけた。
「なんだ?」
「その、刀はどうしてそこに置くんだ?」
問われたことにキョトンとした瞳が枕を見つめ、その後で刹那をじっと見上げてきた。軽く首をかしげながらグラハムは言う。
「特に意味はないが……、そうだな、ここにあると安心するというか……、お守りのような感覚なんだと思う」
「──そうか、邪魔して悪かった」
「いや。おやすみ、刹那。私は先に寝かせてもらう」
モゾモゾと動いた身体が数秒のうちには静かになった。寝つきのよさに感心する傍らで、刹那は溜息をつく。
(お守り、か)
命を落とす人物の形見。それは過去との繋がりを確かにするもの。グラハムが片時も離せないと思うもの。
──未来とは、いったいどこにあるのだろうか。
刹那にもその答えはわからないのだった。