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永遠と麦の穂

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神の不平等




「アロウズのパイロット?」
 《イノベイター》との戦闘を終え、戦いで傷ついたガンダムマイスターたちをトレミーへ収容し終えたスメラギの元へ、また新たな情報が舞い込んだ。
 それはラグランジュ2宙域に展開するソレスタルビーイングの軍需基地からの連絡だった。コロニー付近に生体反応を見つけて確認したところ、大破したモビルスーツと一人のパイロットを発見したのだという。
『黒い、見たことのないモビルスーツだったんで、いったいどこの何者かと思ったら』
「アロウズのパイロットスーツを着ていた、と」
 スメラギは形のいい指先を唇に当てて思案する。
「そのパイロットはどうしているんですか?」
『非常におとなしくて、というよりは何を聞いても無反応で抵抗もないから、居住スペースの一室に閉じ込めていますけど──』
 どうしたらいいでしょうか、と彼らはその存在を持て余しているようだった。
 無理もないとスメラギは思う。技術者たちにアロウズのパイロットをどうこうする理由も権利もないから、実働部隊であるトレミーに引き取ってもらいたいのだろう。
「わかりました。どちらにしても修理と補給が必要です。そちらへ立ち寄りますから、そのときに身柄を預かりましょう」
『助かります!』
 あからさまにホッとしたような表情で、通信相手の映像は切れた。
 ふぅ、とスメラギは溜息をつく。
 アロウズ艦隊は壊滅状態だ。まともに動く戦艦すらないだろう。捕虜を預かったとしても取引の材料にはならないし、むしろ荷物が増えるだけである。けれど、ここで見捨てる選択をするわけにはいかなかった。互いを理解し、共に未来を築きあげていくために、戦い続けてきたのだから。
「アロウズのパイロットなら、ビリーが何か知っているかしら……」
 見たことのない黒いモビルスーツという点も気になる。特殊なものなら、アロウズの技術開発主任だったビリーが係わっている可能性が高い。もしも知り合いならば、彼に引き取ってもらえばいいだろう。
 今はまだ、ソレスタルビーイングとしてやらなければいけないことが山のようにある。敵軍の一パイロットの処遇についてまでは正直考えていられない、というのがスメラギの本音だった。


 刹那がその情報を得たのは、補給と修理のために立ち寄っていた基地内でのことだ。
「黒いモビルスーツ?」
「そうだよ、知っているのかい?」
 〈ガンダムエクシアR2〉と共に収容された刹那は、つい先ほど治療カプセルの中から目覚めたばかりである。簡単な状況説明をフェルトから聞いた後、〈エクシアR2〉の様子を見に来た刹那に、技術者の一人が軽い世間話のノリで語ってくれたのだった。
 黒いモビルスーツと聞いて真っ先に思い浮かべたのは、かつてこの近くの宙域で戦った、あの男が操るモビルスーツである。場所からいっても間違いないと思ったが、刹那は念のために確認をしておいた。
「それはフラッグに似ている機体だったか?」
「フラッグ? ──ああ、ユニオンの。そういえばそうだな、頭部はまんまフラッグだったかな?」
 軽く首をひねりながら答える様子に、彼もあまり詳しいことは知らないのだと悟った。
「パイロットは生きているんだな?」
「ああ。空いている部屋を仮の独房にして、中に入ってもらっているよ。おとなしいけど、暴れられたら困るしね」
「そうか」
 欲しかった情報を得ると、刹那はカムフラージュにトレミー内へ戻るふりをしてから、基地内の居住スペースに移動する。
(あの男は生きているのか)
 自分が生かした、フラッグのパイロット。刹那が初めて試みた『戦わない』という意志でもって命を奪わなかった相手。破壊をするしか知らなかったあの頃の自分を変えていくため、その変革の第一歩として選んだ男がちゃんと生きているという事実は、多少なりとも刹那の心を軽くさせるものだった。
 これから歩んでいこうとする道が間違いではないと、結果として現れているような気がしたのだ。
「ここか……」
 別の技術者から捕虜の収容場所を聞きだし、同時にロックの解除キーも教えてもらってあった。
「まだプトレマイオスの修理は終わってないけど、もう引き取りにきてくれたのかい?」
 人の良さそうな技術者の問いかけに、刹那は瞬時に「そうだ」、と嘘をついた。目覚めたばかりの刹那は、捕虜についてどんな取り決めがあったのか知らない。
 ただ、あの男の生きている姿を、今すぐこの目で確かめたかった。刹那の選んだ道は正しいのだと、その答えを得るために心が焦っていた。
 教えてもらった解除ナンバーを打ち込むと、ドアが横へスライドする。
 部屋の中は備え付けのベッドと棚、そして机。トレミー内とそう変わらない造りをしている。製作している者が同じだから当たり前といえばそうなのだが、刹那はあまり出歩いたことがなかったので、初めて意識してそれらを視界に入れた感じだった。
 ベッドの上あたり、やや宙に浮いた状態で男が片膝を抱えてうずくまっている。見覚えのある緩くウェーブのかかった金髪に、アロウズのパイロットスーツ。わかることはそれぐらいだけど、あの男に間違いなさそうだ。
 逸る心を抑えきれずに近付くと、男も気配を感じたのか、ゆっくりと顔を上げていた。その表情はうつろで、けれど刹那と目があった瞬間、夢から覚めたように瞳を大きく見開いた。
「君は……」
 呆けたような掠れた呟きをあげた後、どこか死んだようだった瞳にも力が込められていく。その鋭い眼差しは刹那もよく知るものであったが、以前とは比べ物にならないくらい弱々しい。
 フラッグのパイロットは「ハッ」と小さな声をあげる。
「今更私に何の用だ、少年。敗者の顔を見て笑いにきたのかね? 趣味がいいとは言えないな」
 形の良い唇から繰り出される言葉は、嫌味にしても覇気がない。それどころか自虐的な感じさえする。刹那はごく僅かに眉を顰めた。
「そんなんじゃない。生きていると聞いて確かめに来ただけだ」
「君が止めを刺さなかったからだろう? 満足かね?」
 男の吐き捨てるような言い草に、刹那はなんとも理解しがたい感覚を味わっていた。
 命を奪わなかったのに、その行為に対する抗議の声を聞かされるとは思いもしなかった。確かに男との戦闘の後で『止めを刺せ』と言われたけれど、刹那は別に殺したがりではない。救える命はできるだけ救いたいと思っているし、そもそも目の前の男を殺さなければいけない理由がなかった。
 もう、破壊するだけしか知らない昔の自分ではないのだ。
(俺は変わるんだ)
 命を命であがない続ける、そんな争いと憎しみの連鎖を断ち切るために。
「勝利を得られなければ、貴様は死ぬしかないのか?」
「……武士道とは信念に生き、それに敗れれば潔く命を絶つものなのだよ」
 そう言った男の視線が微かに揺らいだのを、刹那は見逃さなかった。
「それは本当に貴様自身の望みなのか」
「そうだ! 私は君と! ガンダムと戦い勝利することを望み、それに命を懸けていたんだ! それがすべてだったんだ、なのに、君は!」
「ならば何故、貴様はまだ生きている! 死ぬことを望んでなどいないからだろう!?」
「──っ、違う、私は武士道に……!」
作品名:永遠と麦の穂 作家名:ハルコ