ふたりの狩人
***
銀色の髪の若い狩人がいた。プロイセンといった。
金色の髪の若い狩人がいた。ハンガリーといった。
ふたりの狩人は子供の頃から馬を並べて野山を駆け、狩りの腕を競って大きくなった。
年頃になった銀色の髪のプロイセンは、日に日に逞しい身体に育った。
どうした不思議か、金色の髪のハンガリーの背は少年の頃のままだった。
悔しく思ったハンガリーは、プロイセンよりも朝早く起きるようになった。彼の走る倍の距離を走り、大きく危険な獣に立ち向かった。
しかし、二人の差はいっこうに縮まらなかった。
ハンガリーはプロイセンの姿を避けるようになり、いつも一緒に育った二人は、いつしか並んで狩りに出かけなくなっていった。
ある夜、金色の髪のハンガリーは狩りからの帰り道、丘の上で、白馬に乗った美しい娘に会った。
肌は抜けるように白く、切れ長の瞳はルビーのように赤く、白いベールから覗く髪は月より輝く銀色だった。
見たこともないほど美しい娘は、ハンガリーを見るとにっこりと笑った。
ハンガリーは娘に駆け寄ると白馬の口をとり、矢継ぎ早にたずねた。
何処から来たのか、行くあてはあるのか。しかし娘は黙って微笑むばかりで答えてはくれない。
ハンガリーは、こんな美しい娘を自分の妻にすれば、きっとプロイセンにも勝てるに違いないと考えた。
「どうか私と結婚してくれませんか」
思い切って申し出ると、娘は目をまん丸にした後、突然喉をそらせて笑い出し、白いヴェールをかなぐりとった。
ハンガリーはあっと驚いて轡の紐を取り落とした。
美しい娘に化けていたのはプロイセンだった。
すっかり正体を現し、腹を抱えてゲラゲラ笑うプロイセンを、ハンガリーはカンカンになって追い返した。
まんまとプロイセンに騙されたハンガリーは、悔しくてたまらない。どうにかして仕返しをしてやりたいと、青い泉のほとりに住む賢者を訪ねた。
賢者は何故だかたいへん喜んで、「あなたもとうとうそういう気になってくれたのですね」と、ハンガリーから弓矢を取り上げ、恭しくその手をとった。
「とっておきの魔法をかけて差し上げましょう」
一方いたずらを成功させたプロイセンは、黒い森からハンガリーの姿が消えたことに驚き困り果てていた。
これまでプロイセンは、毎日、早起きするハンガリーの小さな背中を追いかけて後をつけ、何度もわざと喧嘩を売ったり、危険な獲物に挑む様子を隠れて見守ったり、気づかれないように陰から矢を射て力添えしたりしていた。
見慣れた金色の髪の見当たらない黒い森はいつもの何倍も暗く見えた。
上等な獲物を仕留めても、悔しがって張り合うハンガリーの顔が見られなければちっとも心が浮かなかった。
馬を並べて腕を競い合ったハンガリーと、これからともに狩りをする事も、屈託なく笑いあうこともできないのかと思うと、プロイセンは胸が塞いでどうにも悲しくなるばかりだった。
銀色の髪の若い狩人がいた。プロイセンといった。
金色の髪の若い狩人がいた。ハンガリーといった。
ふたりの狩人は子供の頃から馬を並べて野山を駆け、狩りの腕を競って大きくなった。
年頃になった銀色の髪のプロイセンは、日に日に逞しい身体に育った。
どうした不思議か、金色の髪のハンガリーの背は少年の頃のままだった。
悔しく思ったハンガリーは、プロイセンよりも朝早く起きるようになった。彼の走る倍の距離を走り、大きく危険な獣に立ち向かった。
しかし、二人の差はいっこうに縮まらなかった。
ハンガリーはプロイセンの姿を避けるようになり、いつも一緒に育った二人は、いつしか並んで狩りに出かけなくなっていった。
ある夜、金色の髪のハンガリーは狩りからの帰り道、丘の上で、白馬に乗った美しい娘に会った。
肌は抜けるように白く、切れ長の瞳はルビーのように赤く、白いベールから覗く髪は月より輝く銀色だった。
見たこともないほど美しい娘は、ハンガリーを見るとにっこりと笑った。
ハンガリーは娘に駆け寄ると白馬の口をとり、矢継ぎ早にたずねた。
何処から来たのか、行くあてはあるのか。しかし娘は黙って微笑むばかりで答えてはくれない。
ハンガリーは、こんな美しい娘を自分の妻にすれば、きっとプロイセンにも勝てるに違いないと考えた。
「どうか私と結婚してくれませんか」
思い切って申し出ると、娘は目をまん丸にした後、突然喉をそらせて笑い出し、白いヴェールをかなぐりとった。
ハンガリーはあっと驚いて轡の紐を取り落とした。
美しい娘に化けていたのはプロイセンだった。
すっかり正体を現し、腹を抱えてゲラゲラ笑うプロイセンを、ハンガリーはカンカンになって追い返した。
まんまとプロイセンに騙されたハンガリーは、悔しくてたまらない。どうにかして仕返しをしてやりたいと、青い泉のほとりに住む賢者を訪ねた。
賢者は何故だかたいへん喜んで、「あなたもとうとうそういう気になってくれたのですね」と、ハンガリーから弓矢を取り上げ、恭しくその手をとった。
「とっておきの魔法をかけて差し上げましょう」
一方いたずらを成功させたプロイセンは、黒い森からハンガリーの姿が消えたことに驚き困り果てていた。
これまでプロイセンは、毎日、早起きするハンガリーの小さな背中を追いかけて後をつけ、何度もわざと喧嘩を売ったり、危険な獲物に挑む様子を隠れて見守ったり、気づかれないように陰から矢を射て力添えしたりしていた。
見慣れた金色の髪の見当たらない黒い森はいつもの何倍も暗く見えた。
上等な獲物を仕留めても、悔しがって張り合うハンガリーの顔が見られなければちっとも心が浮かなかった。
馬を並べて腕を競い合ったハンガリーと、これからともに狩りをする事も、屈託なく笑いあうこともできないのかと思うと、プロイセンは胸が塞いでどうにも悲しくなるばかりだった。