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Everlasting Blue

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「今日は晴れだったっけ?」
 コツコツと靴音を響かせながら通路を歩くビリーの極めて無頓着な話題に、グラハムは小さな溜息をついていた。
「君のその反応からするに、きっと雲ひとつない快晴なんだろうね」
「出てみれば分かる」
 ものの数分でたどり着いた場所は滑走路。
 〈リアルド〉や〈フラッグ〉が大空へと旅立っていくアスファルトの先は、目も覚めるような空色のキャンバスへと繋がっている。
「うわ……、眩しい。いい天気だね」
「絶好のフライト日和というやつさ。私も早く飛んでみたいぞ」
 役職を持たないグラハムは当然、飛行訓練にも参加できない身分だった。復職してからこれまで一度も空を飛んでいないことに気付き、ビリーは軽く目を瞠ってしまった。
「よく我慢しているね?」
 あの、我慢弱いと公言してやまなかった彼が。
 グラハムはビリーに視線を合わせ、そのあとで軽く俯いてから思い切りよく顔を上げて空を仰ぎ見ていた。
「カタギリ。空はいつだってあそこにあるんだ」
 まるで何かの悟りを開いたかのような言葉に、ビリーも釣られるように顔を上げた。
「だからもう、独り占めしようとするのはやめた」
 ビリーは言葉にならない声を飲み込んで、ただ瞠目する。
 空が欲しいと言っていた、あの幼いグラハムはもういないのだ。我が強くて、言い出したらテコでも動かなかった頑固な男の心に生まれていた変化。
 それは新しい魅力となって、彼をさらに磨き上げていくに違いない。
 ──でも。
 我侭を言って困らせてくるグラハムがいなくなるのかと思うと、ビリーは少しばかり寂しいような気がした。
「空はきっと誰のものでもないんだろう。でも、言い換えればそれは誰のものでもあるということだ。……私は、その空を守ろうと思う」
 欲しがって誰にも渡さないのではなく、もっと広く解放して自分が自由に空を飛ぶために。
 それは発想の転換だった。ビリーはグラハムの考えを尊び、穏やかに微笑んでみせる。
「なるほど……。うん、それは、とてもいいというか、素敵な考え方だね。けど、君の希望を叶えるためには相当なハイスペックの機体を作り上げないとダメなんだけど」
 両手を広げ、やや大袈裟なアクションで首を振ってみせたら、グラハムはとても彼らしい挑戦的な眼差しでこちらを見つめ返してきた。
「カタギリにしかできないことだから頼むんだ。私に空を翔る自由をくれ」
「……やだなぁ。なんて殺し文句を言うんだろう」
 ちょっぴり大人になってしまったかと思ったが、それは気のせいのようだった。少なくともビリーに対する態度は、出会った頃から少しも変わっていない。
 不遜で我侭で、でも期待に応えるための努力を惜しまず注いでくれる。理想のパイロット。そして、親友であり盟友でもある男の願いなら、本当はなんだって叶えてやりたいと思っているのだが──。
「君専用の機体の設計は簡単だけど、カスタマイズ機が製造できるかどうかは……」
「軍の予算次第か。ならば、私がその性能を上層部に知らし召してやろう」
 これほど頼もしい台詞を言葉どおりに受け止められるのも、ビリーが知る中でグラハム・エーカーだけだった。
 改めて思う。
「すごく今更なんだけどさぁ……」
「なんだ?」
「僕、君と出会えて本当によかったって思うんだ」
 ビリーが技術者としての地位を確立できたのも、ひとえに彼の存在が大きかった。もちろん、幼少の頃から天才と言われてきたビリー自身の努力もあるけれど、それだけではここまで来ることはなかったと思っている。
 グラハムという強烈な個性にグイグイと引っ張られる形で、どちらかといえばおとなしい部類に入るビリーも、その世界の頂点を見ることができたのだ。
 だから、彼にはありったけの感謝をしている。それを言葉にしたのは、今が初めてだったかもしれないが。
 パチパチと、グラハムの大きな瞳が瞬きを繰り返す。グリーン・アイズが若干照れたように逸らされて一言。
「それはお互い様だ、カタギリ」
 つい、と仕舞いには顔ごと逸らされた彼の両耳が真っ赤になっている。
 クスクスと、隠しようのない笑いがもれた。
「任せて、グラハム。試作機の製造は辞令が出る前から始めておくよ。大丈夫、ユニオンの技術者たちはね、エースパイロットのことが大好きだからね」
 グラハムが乗るからと言えば、張り切って力を貸してくれるだろう。それぐらいの信頼関係を長い歳月の間に作り上げているのだ。
「……そうか。ありがたいな、それは」
 逸らされていた顔が元に戻り、グラハムは嬉しいくせに困ったような表情を作ってみせた。
 照れ隠しなのか、空を見上げる彼の行動は、ひょっとしたら無意識下に刻まれた刷り込みのようなものなのかもしれない。
 時代は目まぐるしく変わっていった。
 世界も、政権も、生活も、自分の身の回りにいる人達も、みんな数年前とは違っている。
 急激な変化に対応し切れなくて、お互いに道を踏み外したこともあったけれど。
 彼が幼い頃から見上げ続けているあの空だけは、この先も形を変えることなく残り続けるのだろう。
 あの青い色は永遠に。
 溶けるように美しく舞う勇姿と共に刻まれて、永劫の未来を模っていくのだ。


作品名:Everlasting Blue 作家名:ハルコ