深い森の中の恋物語
しばらく森の中を歩き続けて、出口がわからないなりになんとか小さな馬車道に出ることができた。森の薄暗さから解放されただけでも空気の重さが違った。
だが子供はさすがに疲れて来たのかすっかり不機嫌だ。アデルは機嫌取りでおんぶを提案し、背負われてしばらくは喜んでいたがそのうち彼女の消耗が深刻になった。
背後からひづめの音が聞こえた。車輪の音もあった。馬車か? と振り返ると一頭引きの馬車がこちらに向かっていた。アデルはよろよろと道の端へ歩いた。乗せてくれないかしら、などと淡い期待を抱きながら。
御者台には身なりの良い青年が座っていた。きっと高い身分の人だろう、と乗せてもらうのは諦めた。すると、ひづめの音は緩み、馬車は自分に横付けされた。アデルが大きな目をいっぱいに見開いていると、青年は御者台の上からこう声をかけてきた。
「こんなところで何をしている? ここから先は女が子供を背負って歩いて行くような距離ではないぞ」
「は、はい、実は森で迷ってしまって、やっとこの道に出ることができたのですが……どこまでいけばよいのか、わからなくて」
彼女が長いこと歩き回ったのは、汗ばんで額や頬に貼り付く髪の毛や、彼女の疲弊しきった表情を見ればわかった。背にした子供はうつらうつらとしている。
「……乗れ」
青年の口調は貴族のそれらしく堂々としており、声色にも若いながら威厳があった。そして精悍な美貌も相まって、そう言われたアデルの目には天使が降りて来たかのごとく映った。
涙ぐみながら礼を繰り返し、行き先を告げて乗り込み、しばらくすると彼女は子供とともに寝入ってしまった。がくりと首を曲げて眠りこける彼女に、彼は手綱を引いて馬の足を緩めた。
だが子供はさすがに疲れて来たのかすっかり不機嫌だ。アデルは機嫌取りでおんぶを提案し、背負われてしばらくは喜んでいたがそのうち彼女の消耗が深刻になった。
背後からひづめの音が聞こえた。車輪の音もあった。馬車か? と振り返ると一頭引きの馬車がこちらに向かっていた。アデルはよろよろと道の端へ歩いた。乗せてくれないかしら、などと淡い期待を抱きながら。
御者台には身なりの良い青年が座っていた。きっと高い身分の人だろう、と乗せてもらうのは諦めた。すると、ひづめの音は緩み、馬車は自分に横付けされた。アデルが大きな目をいっぱいに見開いていると、青年は御者台の上からこう声をかけてきた。
「こんなところで何をしている? ここから先は女が子供を背負って歩いて行くような距離ではないぞ」
「は、はい、実は森で迷ってしまって、やっとこの道に出ることができたのですが……どこまでいけばよいのか、わからなくて」
彼女が長いこと歩き回ったのは、汗ばんで額や頬に貼り付く髪の毛や、彼女の疲弊しきった表情を見ればわかった。背にした子供はうつらうつらとしている。
「……乗れ」
青年の口調は貴族のそれらしく堂々としており、声色にも若いながら威厳があった。そして精悍な美貌も相まって、そう言われたアデルの目には天使が降りて来たかのごとく映った。
涙ぐみながら礼を繰り返し、行き先を告げて乗り込み、しばらくすると彼女は子供とともに寝入ってしまった。がくりと首を曲げて眠りこける彼女に、彼は手綱を引いて馬の足を緩めた。