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太陽の国(2・夕星の鐘)

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 振り絞るようにして言うと、彼女は首を傾げた。今の発言が挑発の続きなのか薬自体の却下なのか、彼女は慎重に見極めようとしていた。僕は本の表紙に視線を移した。視線を逸らしてしまったことで、これが挑発でないことが決定的に彼女に見抜かれた。

「私の薬は信用ならない?」

 静かな声で彼女が訊ねる。僕は立ち上がった。身体ごと彼女の視線から逃げる。こんなことを素面で言えるほうがどうかしている。

「このままでいい」

 見遣った窓の外には夕刻が広がっている。茜から紺青へと移るグラデーションの途中には、通常の空には見られない色も混じっていた。スペクトルはあざやかすぎて、押し寄せる色に目の奥が痛い。
 
 僕は頭を振った。彼女はどんな嘲弄も揶揄も口にせず、そう、と短く言った。

「揃えるくらい、しようか?」
「必要ない。自分でやる」
「そうね、また手元が狂ったら大変だものね」
「まったくだ」

 くすりと彼女が笑うから、僕も少しだけ笑った。振り返った室内は夕闇にほの暗く、僕にささやかな安堵をもたらした。からんからんと遠くで鐘が鳴った。その音がとばりの向こうに消えるまで僕は耳を澄ませた。

「じゃあ、…そういうことで」

 彼女は言い、鞄を引き寄せた。 

「そういうことで」

 成立した商談に握手をするような口調で、僕たちは別れの挨拶をする。
 
 ああ。
 揺れてはいけない。

 彼女が手を振る。身を翻す彼女の肩に赤い髪が揺れた。僕は手を振らない。彼女の赤い髪を追わない。緑の瞳を探さない。彼女の凛とした眼差しは、そのまま彼女の強さだ。あざやかな色彩は己と対比を成すものだ。揺れてはいけない。触れてはいけない。僕は目を閉じる。瞼の裏に進むべき道を探す。

 
 
 光に心を奪われてはいけない。
作品名:太陽の国(2・夕星の鐘) 作家名:雀居