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太陽の国(3・ガーランドガーデン)

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 境界線など、もう曖昧だ。私はそれを見失わないために、絡めた指に力を込めた。彼はそれに応えた。

「シフォンケーキ、を」

 ああ、これは彼の、声。
 私はゆっくりと視線を引き戻した。手元で草花が揺れている。平和な顔をして、さわさわと揺れている。

「作るのは難しいのか」
「難しくはないけど、たいへん」
「大変?」
「お菓子作りはね、体力勝負なの」
「もっと繊細なものと思っていた」
「繊細さも必要だけれどね。メレンゲなんてとにかく腕力よ」
「意外だ。だがそれこそ魔法でやればいいだろう」
「細かいコントロールが難しいのよ、まだ慣れなくて」
「なんだ結局弱音か」
「違うでしょ!あなた私の話ちゃんと聞いてた?」
「どう聞けば弱音以外の解釈ができるんだ」
「ちょっと腕が痛くなっただけよ。ほら華奢だから」
「その華奢な腕で何人沈めた?」
「口が減らないわね。あなたは口でメレンゲ作りなさいよ。きっと上手よ」
「冗談だろう。僕が何のために杖を持っていると思うんだ」
「スコーンも作れないくせに」
「……そんな見え透いた挑発に僕が乗ると思うのか?」
「乗るでしょう?だって、」

 私は意を決して彼を見た。一瞬も遅れず彼も目を上げる。光を秘めた瞳は漆黒。かちりと音を立てて視線がかみあった。彼の目の奥にあるものを見てしまう。私の目の奥にあるものを見られてしまう。せっかく彼が軽い話題を選んでくれたのに、私はそれにうまく合わせることができたのに。
 触れたところだけが暖かくて、ただ暖かくて、
 
 だからもう、何も言えなくなってしまった。

 
 
 
 さよなら、と。
 そう言ったのは私だったか、それとも彼だったか。