【藤崎竜作品】蜘蛛の糸
《――赤き血は捧げられた》
頭上から響いた声に、シオは顔を上げた。
金色の光の中に、巨大な影がある。大きく羽根を広げたような、けれど鳥とも違う異形の像。神の姿を模したというわりに、腕に抱いた本物の神とは似ても似つかなかったが。
――おまえならどうする?――
遠い昔、枕元で聞こえた声が問う。
願いの叶う蜘蛛の糸。
頼りなく細いそれは、たった一度だけ、たった一人の願いを叶えるという。
「もれの願いは、」
どんなに細くとも、今にも切れそうでも、他の人間を蹴り落とすことはシオには出来ない。それによって、自分の願いが叶わなくとも。
恐ろしいのは、願いが叶わないことではない。
すべてが自分にとっては切り離しがたく捨て難い。
何もかも欲しがる自分が、実は一番欲張りなのかもしれない、とシオは笑った。
「皆の願いが、すべて、等しく、叶いますように」
そして光が世界をつつむ。
作品名:【藤崎竜作品】蜘蛛の糸 作家名:季菟